トップページ  >  ギャラリーセレクション  >  小山登美夫ギャラリー 小山登美夫氏インタビュー

10年目を迎えて小山登美夫からのメッセージ

小山登美夫氏
――まずはギャラリー10周年、おめでとうございます。この10年でアートを取り巻く環境は大きく変わったと思いますが、小山さんはどうお感じになっていますか?
ようやく日本でも、コンテンポラリーアートがお金を出して買うものであり、楽しむものであると同時に、またそれが資産として価値として投資的なものにもなり得るという情報がいろんなところで出てきたことは大きいと思いますね。最近、オークション会社が日本でもすごく増えてきているのもその兆候。自分の買ったものを楽しむというのが基本ですが、きちんとした価値を持ち、流通していくものだとわかるともっと安心して買えるわけですよね。やっぱり欧米の人たちはそういうことを知識や経験としてわかっているから、若いアーティストの作品も積極的に買えるわけです。
――社会の中に徐々に受け皿ができてきた実感がありますよね。文化的に成熟してきたというか。
そうそう。そういうシステムが社会の中にあることが分かるのが大事。それともう一つこの10年の大きな成果と言えるのは、日本の作家も海外で十分通じるのだとはっきりわかったことでしょう。私や私の周りの同世代のギャラリストたちは、海外に持っていって売れるか売れないかチャレンジしてみようというのが最初からあったんですが、その頃から日本のアーティストは売れるだろうと思っていたんです。こういう作品は世界でも例がないからいけるぞ、という。当然、日本だけのマーケットで考えるより、世界を含めたマーケットの方が大きいわけですから。そこで認められれば価格も安定するし、日本の人たちも振り向いてくれるわけです。
――今や海外の有名アートフェアに日本からも10件ぐらいのギャラリーが出て行くようになりましたが、そうした状況も10年前にはなかったですね。 
ギャラリーも増え、さらにそれぞれのギャラリーの特色はこうで、こういうテイストの作品が欲しいならここ、といった、自分の好みで見るものを「選べる」点でも充実してきたよね。
――ひとくちにギャラリーと言っても、オーナーごとで扱う作家のテイストが異なっているのが面白いですよね。また一軒のギャラリーの中でも、たとえば小山登美夫ギャラリーであれば村上隆、奈良美智、杉戸洋のように、既にある程度市場での評価が安定したアーティストもいれば、これから伸びていくであろう若手有望株もいるというところも醍醐味の一つ。今回タグボート・ギャラリーセレクションに新たに出品なさる川島秀明、福井篤、加藤美佳の3人などはまさにそうした今後注目したい作家たちです。

――一言ずつ、今回の作家についてコメントをお願いします。

「苺味のキノコ」
2004年 acrylic on canvas 91x 100cm
© Atsushi Fuku
photo: Yoshitaka Uchida, Nomadic Studio
福井篤(’66年生まれ)の絵には、現実のなかにあるものと、夢の世界と、次元の違うものをミックスしているようなところがある。どこか非現実の世界へのスイッチ、そこへ通じる扉みたいな不思議な感覚を抱かせる作品を描いています。エイリアンが描いたようだと言ったアメリカ人がいましたね。
「soak」
2004年 acrylic on canvas 162.0 x130.3cm © 2004 Hideaki Kawashima
photo: Yoshitaka Uchida, Nomadic Studio
川島秀明(’69年生まれ)はいろんな「顔」を描いている作家です。彼は一時期、比叡山で仏道の修行をしていたことがあって、どこか現在の作品制作においても、毎日毎日自分の欲望や煩悩を見つめるために描いているようなところがあると思う。目や口ははっきり描かれているのだけど、どこかのっぺらぼうのようで、具体的な人というより、「魂の状態」を描いているようなところが独特ですね。
「カナリヤ」
1999年 oil on canvas 194.0×194.0cm
© 1999 Mika Kato
photo: Yoshitaka Uchida, Nomadic Studio
加藤美佳(’75年生まれ)はまだ若いけれども、彼女が大学院にいたとき「すごいのがいるからぜひ見にきてくれ」とそのゼミの教授から紹介されたのがきっかけ。自分でつくった人形をモチーフにして絵に描いているんだけど、ディテールの質感がすごい。本当に毛の一本一本まで。よく、精巧な人形は本当に髪が伸びてくるんじゃないかって思うじゃない。単なるスーパーリアルっていうんじゃなく、この人のはもっと何というか、「人」をもういっぺんつくっている、そんな感じ。
川島秀明や福井篤はすでに海外のコレクターもついていて、フェアに持っていっても人気ありますよ。加藤美佳のも持って行きたいけど、とにかく精巧で仕上げるのに時間がかかるから、希少すぎて出す作品がない状況。ロンドンのホワイトキューブでも展覧会をしましたが、大人気でした。 (注:川島さんと加藤さんは現在横浜美術館で開催中の「アイドル!」展に出品しています)
――インタビューの最後に、今後の抱負について聞かせてください。
これまでの10年は日本のギャラリーが海外のマーケットに出ていき、自分たちの作家がインターナショナルに通用することを実績として出した時期だったと思う。次の10年は、日本のマーケットがどうなっていくかがいよいよテーマになっていくでしょうね。ちゃんとした美術のシーンをつくっていきたい。それこそ以前には考えられなかったくらいに前進している。けれど、まだ始まったところです。また開拓していかなければいけないですね(笑)。

文・安田洋平
(インタビュー収録 2006年9月26日/小山登美夫ギャラリーにて)