- ご友人の話がヒントになったのですね。
はい。作家というのは誰しも自らの作品を「誰のため」に制作しているのかと考えることがあると思います。それを追及するために始めたのが“for you”のプロジェクトです。“for you”という作品は、観客が瞬時に、そのコンサートを成立させているのは自分である、とはっきり理解できるしかけになっています。
- そこは従来のコンサートとは違う点ですね。
そうですね。演奏者と空間、そしてそれを受ける観客がいないと“for you”は成立しない。受け手の存在が、作品成立のためになくてはならない、非常に重要な要素なのです。さらに、観客はその場所に座っている自分自身の内的体験の歴史、それまで培ってきた感受性がコンサートを成立させているという事実とも対峙することになるのです。また、演奏者にとっても誰のためにやるのか、非常にわかりやすい。
- お客様の反応はいかがですか。
人によります。泣かれたり、動けなくなってしまうお客様もいます。
- 向井山さんも?
いえ、私は客観的でいられるように心がけています。出来るだけよい演奏をする、それだけです。お客様のイメージにあわせたり、それによって演奏が左右されることのないように常に客観的でいるようにしています。
あるとき、死期が近い方が聴きにくるというので、できるだけ明るい曲を演奏してください、と頼まれたことがあります。その晩、すごく考えたのですが、結局そういった事情は考えずに演奏することにしました。ただ、演奏後に私はその方の夜やその方の帰りの旅路をずっと想像してしまいました。その時の心情や意味合いというのは、演奏前に決めるものではなく演奏後についてくるものだと思っています。 100人の観客がいれば100通りの感動があるのですから。そして、この“for you”ではそれを分かち合えるのは演奏者である私とその演奏を受ける人だけなのです。
- そういった“for you”の空間をつくるものは、何であると思いますか。
・・・・・。 「力」であると思います。これはその場で感じるものだと思いますが。舞台に降ってくるような、私と観客の巻き起こす力である、としか言いようがありません。