トップページ > アートな生活 > アートをマーケットから読み解く アートディレクター広本伸幸

ディレクター広本の『アートをマーケットから読み解く』
凍りつくどころか、ホットなハドソン・リヴァー (2004.02.16)
2004年1月23日の『ウォール・ストリート・ジャーナル』が、美術市場で15年間に価格が大きく変動した作家をリストアップしている。上位10人中タグボート取り扱い作家が5人含まれ、4位ダン・フレヴィン、6位キース・ヘリング、7位ダミアン・ハースト、8位ジェフ・クーンズ、9位ロイ・リキテンスタイン。キースは15年で300%アップ、今「買い」の作家だ。
アルバート・ビールシュタット
アルバート・ビールシュタット(1830-1902)
「Looking Down Yosimite Valley, California」 1865年
さて1位はアルバート・ビールシュタット、日本では余り名前を聞かない作家だ。19世紀アメリカの風景画家だが、平均的な作品の価格は1988年に5万ドルだったのが、今や百万ドル、なんと2000%の上昇率。トーマス・コール(1801-48)を創始者とするアメリカ最初の風景画家の一派は、ニューヨークを流れるハドソン・リヴァーの景観を題材としたため、ハドソン・リヴァー派と呼ばれる。壮大な大自然の光景を描いた作品は人気を博し、今も全米の美術館の常設展示に必ず見られるものだ。
コールの後継者の一人、ビールシュタット(1830-1902)は、西部横断の旅行をして、自然の光のドラマチックな風景表現をさらに推し進めた。しかし19世紀末にアメリカにも広まった印象派に人気を奪われ、晩年はほとんど忘れ去られてしまった。
第二次大戦後の抽象表現主義の画家、特にマーク・ロスコとバーネット・ニューマンの作品には精神的価値として崇高性が大画面に表現された。彼らが最も好んで用いた赤、黄の二色は日の出や日没の光景を連想させる。また現在人気のあるピーター・ドイグやローラ・オウエンスといった素朴な自然表現や自然とテクノロジーの関係を追究するオラフル・エリアソンの作品の自然観にもつながっているように思われる。
ビールシュタット再人気の背景には、時代を超えた自然に対する敬虔な感情があるようだ。当時一般にも非常に影響力のあった哲学者ラルフ・ウォルド・エマーソンは「自然の最も高貴な任務とは、神の顕在として存在することである」と語っている。人間が作った天に聳える高層ビルが破壊された9・11のトラウマを、大自然の崇高な風景を描いた先人の作品によって癒そうとするのかもしれない。