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ギャラリスト小山登美夫が語るアートとの付き合い方
2006 ギャラリーから発信していくアートの”今”
昨年11月、小山登美夫ギャラリーはじめ日本のアートシーンをリードするギャラリーが一斉に清澄白河に移転しました。これは昨年の日本のアートニュースのなかでも大きな出来事だったと言えるでしょう。ギャラリータグボートのオフィシャル・アドバイザーでもある、小山登美夫さんにお話を伺いしました。
小山登美夫さん
小山登美夫さん
白い建物の5〜7階が全部ギャラリー
白い建物の5〜7階が全部ギャラリー
オープニングパーティーのときに行われた、三宅信太郎によるパフォーマンス「KUMAO」
オープニングパーティーのときに行われた、三宅信太郎によるパフォーマンス「KUMAO」(写真提供:小山登美夫ギャラリー)
小山登美夫ギャラリー(写真は坂井淑恵展)
小山登美夫ギャラリー(写真は坂井淑恵展)
『International Art Galleries』
『International Art Galleries』
シュウゴアーツ
シュウゴアーツ
丸山直文さん作品(シュウゴアーツ)
丸山直文さん作品(シュウゴアーツ)
ヒロミヨシイ・ギャラリー
ヒロミヨシイ・ギャラリー
MAGIC ROOM?
MAGIC ROOM?
6F小山登美夫ギャラリー ビューイング・ルーム
6F小山登美夫ギャラリー ビューイング・ルーム
■ギャラリー移転 気持ちも新たに

−−そもそもどうして清澄白河へ移転しようと思われたのですか。

もともとここのビルの7階をうちのギャラリーの倉庫として借りていたのですが、ちょうどタイミング良く他の階が空いたこともあり、シュウゴアーツさんたちに見せたのです。なかなかこんな大きなスペースはない、みんなで借りようということになりました。この新しい地で、改めて自分たちのやっているアーティストをきちっと見せていこうと考えています。 

−−ここだけで半日過ごせそうなくらい充実していますね。本当にいろんなアートが見ることができます。3フロアにギャラリーが集まって、しかも皆個性が豊かです。

僕らが共通してやりたかったこととは、同じものを扱うんじゃなくて、美術に対して異なるアプローチを持ってそれぞれの個性で見せていくこと。そういう8軒が集まったということが言えると思います。

−−小山登美夫ギャラリーの空間も以前よりグレードアップしているようです。

大きくなりましたね。 また6階にもう一室、ビューイングルームを構えたのですが、そこは常設作品のブースとしてこれまでお見せできなかったストック内の作品を見せる場所にして、「こんな作品もあったんだ」と見ていただけるようにしていくつもりです。

−−シュウゴアーツ、タカイシイ、KIDOプレス(奈良さんなど小山登美夫ギャラリーの作家のエディションを数多く手がけていることで知られる版画工房)と門前仲町から一緒の面々に加え、六本木から移転してきたヒロミヨシイ、新たにギャラリーを始めたZENSHI、MAGIC ROOM?、ミヤケファインアーツと、これからのアートの発信拠点となることは間違いないでしょう。

「ZENSHI」のオーナーは年齢も33歳と若いし、スペースはちょうど僕が佐賀町で最初に自分のギャラリーを構えたときくらいの大きさで、ここからまた新しい世代のアートが生まれていくのでしょう。その隣り「MAGIC ROOM?」は、オープニングのときも「キャシー」というパフォーマンス・アーティストのショーをやっていましたが、非常に"生"っぽい感じがあるギャラリー。ついこの間も玄関に「今日LIVEあります」というチラシが貼ってありました(笑)。

−−オープニングはすごかったですね。人が多すぎて前に進めないくらいでした。

予想以上で驚きましたよ。800人くらいの方がいらっしゃいました。

−−海外でも今回のギャラリー移転のことは知れわたっているのでしょうか?

12月にマイアミ・アートフェアに行ったら結構周りの人が知っていて驚きましたね。『ジャパンタイムス』に記事が載ったことがあったのですが、海外のギャラリストがなぜか『ジャパンタイムス』をチェックしているんですね。

■蜷川実花『floating yesterday』

−−今回、新春第一弾のタグボート・小山登美夫ギャラリーセレクションでは、蜷川実花さん『floating yesterday』に収録のオリジナル写真作品を紹介していただきます。昨日11月に発表されたばかりの写真集からのセレクトです。

前回の「花」シリーズはモノをどう撮るかにフォーカスがあたっていましたが、今回はより蜷川さんがこの世界をどう眺めているのか、その視線が直接に伝わってくるかのような風景の作品に仕上がっています。蜷川さんは宝塚が大好きだったり、かわいらしさを持った女性ですが「写真家としての蜷川実花」は、自分の生きている時間をどう濃く生きるか、それを非常に強く体感させてくれる人。そういう意味で彼女はアラーキーや森山大道さんにもつながる、重要な写真家になっていく人だと思います。ガーリーとよく言われるが、本当はもっと骨太さを持った作家。今回のシリーズではより成熟した蜷川実花が見られると思いますよ。

−−展覧会も今年行われますか?

ええ、小山登美夫ギャラリーでも「造花」のシリーズで個展を行う予定です。これもずっと撮り続けている、彼女のモチーフの一つ。さらにイタリアやオーストリアから展覧会の話が来ているので、それらも実現させたいですね。 

■世界からの熱い視線

−−日本のギャラリーや日本の作家が海外で取り上げられる機会は、増えているのでしょうか。

そうでしょうね。たとえばアートブックの老舗版元タッシェン社が刊行している『ART NOW』は、今世界で注目されているアーティストが網羅されていることで知られていますが、そのvol.1では村上さんと奈良さんが、先日刊行になったばかりのvol.2では三宅信太郎が掲載されました。また同じく昨年、世界中の主要ギャラリーをまとめた本が出版されたのですが、これにはアメリカ、ヨーロッパはおろか、メキシコ、コスタリカ、南アフリカ…、ほんとうに世界中の注目ギャラリーがすべて載っている。僕のギャラリーも掲載されていて良かった(笑)。

−−『International Art Galleries』(Thames and Hudson社)。非常に面白そうな本ですね。

現代のギャラリーだけでなく、伝説的な過去のギャラリーなどについても詳しく載っていたりするし、貴重な写真も多い。ほら、これなんか(と言って当時のジャクソン・ポロック展の写真を指差す小山さん)。これ一冊あればかなり世界のギャラリーのことが分かりますよ。

■2006年小山登美夫ギャラリーの展覧会

−−今年の展覧会のご予定は。

もう始まっていますが、まず1月21日から「Think Warm」という、マイアミの若いアーティスト24人を紹介する展覧会。ナオミ・フィッシャー、ハーネン・バスなどマイアミ・アートフェアで出ている作家も含まれますが、いずれも日本ではまだ紹介されていない人ばかりです。

2月は菅木志雄展を行います。意外と思われるかもしれませんね。菅さんは「もの派」と呼ばれる70年代の前衛美術を代表する一人として知られていますが、僕は非常に現代的なものを感じるのです。「イベント」と呼ばれる、ライブで彫刻をつくっていく氏のパフォーマンスは、ガブリエル・オロツコなどとも通ずるものがある。海外でも注目される日本のアーティストとは突然に出てきたわけではなく、これまでの作家のなかにも山のように優秀なアーティストはいたのです。大事なのはそれをどういうかたちで僕たちが解釈し、見せられるかということ。ギャラリストとしてそういう仕事ができたら良いと思います。

−−奈良さんは7月29日から始まる「A to Z」(青森県弘前市・吉井酒造煉瓦倉庫)が今年注目ですね。

青森は今年、青森県美術館もできるし(設計・青木淳)、おすすめですよ。すごくいい作家のコレクションを持っているし奈良さんの常設室もある(これまでは奈良さんの郷里であるにも関わらず常時作品を見られるところがなかった)。ねぶた祭りのころにぜひ。

■2006年の抱負

−−最後に、今年の抱負というか今日本のアートについて感じていらっしゃることを聞かせてください。

最近、実は日本は美術大国なんじゃないかと思っているのです。それはつまり、「アマチュアのアーティストがこんなにパワフルな国はない」ということ。GEISAIを見てもわかりますが、本当にいっぱい出てきている。NYではプロフェッショナルのアーティストが見せる場所はあってもアマチュアの人が見せる場所というのは無い。その意味ではこれだけアートをつくって、見せている人たちがいる国は唯一無比。たぶん世界のほかのどこを見ても例が無い。だから、あとはそうした土壌とマーケットがどうリンクしていけるか。今後の日本のアートシーンの一つのヒントはそこにあるような気がしているんですよ。