トップページ > アートな生活 > アートとの付き合い方 ギャラリスト小山登美夫 / 小山登美夫ギャラリーと@Galleryタグボートの違いは?プライマリー・マーケットとセカンダリー・マーケットの違い(2004.08.09)

ギャラリスト小山登美夫が語るアートとの付き合い方
小山登美夫ギャラリーと@Galleryタグボートの違いは?
プライマリー・マーケットとセカンダリー・マーケットの違い (2004.08.09)
小山氏(以下K):本日は「プライマリー・マーケット」と「セカンダリー・マーケット」の違いについて話をしようと思うのです。これはまさに、うちのギャラリー(小山登美夫ギャラリー)とタグボートそれぞれの絵画ビジネスの違いと関係性を説明することにもつながります。

タグボート(以下T):はい。おそらく一般の方にはなかなか耳慣れない言葉だと思いますので、基本的なところからご説明くださいますか?

K:アートにはそのプライスが決まっていく上で2種類の仕組みがあるということです。まずプライマリー・マーケットとは、日本語に訳すと「第一段階のマーケット」となりますが、アーティストが新しい作品をギャラリーで発表しそこでお客様に売るという、第一次的なマーケットのことを指して言います。つまり私どものギャラリーは、プライマリー・ギャラリーとなります。

T:アーティストの新作は常にギャラリーから供給されるわけで、だから第一次のマーケットということですね。また言い換えれば、アーティストの作品の値段はギャラリストによって決められているということができ、それが「プライマリー・プライス」にあたる、というわけですね。

2003年に小山登美夫ギャラリーで行われた奈良美智ドローイング展の模様。
photo:Yoshitaka Uchida, Nomadic Studio. ©2003 Yoshitomo Nara.
K:そうです。しかしアーティストに人気が出始めると、ギャラリーによる供給よりお客さんの需要が上回るようになってきます。アート作品が他の商品と違うのは、需要に応じて大量生産ができるわけではないということです。だから「セカンダリー・マーケット」が生まれることになります。アート・ディーラーやセカンダリー専門のギャラリー、及びサザビーズやクリスティーズといったオークション会社はこれにあたります。タグボートは、このセカンダリー・マーケットのギャラリーであって、その取り扱い作家や作品をワールドワイドにセレクトし、調達しているということですね。タグボートが独自に販売している奈良・村上作品は、その時点で私の小山登美夫ギャラリーがプライマリーとして出したものものではなく、(実際うちでも既に売り切れています)海外のセカンダリー・マーケットにて出来る限り適正な価格で調達したものです。もっとも、先ほどの「段階」ということで言えば、オークションで売り買いされるようになる作家はよほど人気と評価がある作家に限られますが。

T:村上隆、奈良美智、杉本博司、宮島達男、森万里子、河原温、荒川修作……。コンテンポラリー・アートのオークションで出てくる日本人のアーティストというとこのあたりでしょうか。

K:非常に強いセカンダリー・マーケットを持っているということは、それだけその作家に人気と評価があることの証明になります。またお客さんからしてみれば、アート作品を買うことのできる場所や作品の選択肢にバラエティが増えるということでもあります。だからそれ自体は良いことなのですが、ただときに問題になるのは需要が急激に高まっていくと、セカンダリー・プライスだけが一方的に高くなってプライマリー・プライスと大きな格差が生じてくるケースがあるということです。特にいわゆる一点ものといわれるペインティングやドローイングに顕著にあらわれます。当然ながら流通量が1点しかないわけですから、これがプリントといわれる版画作品のエディションものとは違う部分です。無論エディションものも価格差は生じますが、一点物ほどの乖離はありません。これがまさに今の村上さんや奈良さんの作品において起こっていることです。正直なところ、現在の村上・奈良の、セカンダリー・マーケットでの値段は私の想像の範囲を超えています。

T:ギャラリーが作家と相談して決めた「基本価格」であるプライマリー・プライスに対して、「この値段でもぜひとも買いたい(買うであろう)」という風にセカンダリー・プライスのみが高騰してしまうケースがあるというわけですね。

K:私たちギャラリストはあくまでプライマリー・プライスについての責任を持っているが、ある時点においてのセカンダリー・プライスについて将来にわたっての最終的な責任を持つことはできないということはあえて申し上げなければなりません。私たちギャラリーも前回の作品が売り切れとなり順調に作家の人気が上がっていけば、では次の新作展のときには少しプライスを上げて、というように常に作家の市場価値を高めていくことはしていますが、しかしプライマリー・ギャラリーと作家が考える妥当な値上がり幅というものがあり、一度に急に上げるようなものではありません。

T:そもそもアートの値段はどのように決まっているのか、ということに読者の方々は興味を持っていらっしゃると思いますが、ギャラリーではどのように値段をつけられているのでしょうか?

K:基本的には世の中にある他の商品と違わないと思います。新人作家だったらこのくらいとか、このサイズの作品だったらこのくらい、といった相場価格が決まっていて、それに応じて値段を決めています。例えば、奈良さんの場合、96年に私のギャラリーで最初の個展を行ったときにA4くらいのサイズのドローイングの作品がおおよそ4万円でした。


「サザビーズ」「クリスティーズ」オークションのカタログ
2004年5月のクリスティーズ・オークションカタログより。奈良美智のドローイングが出品され、33,346ドルで落札された。
T:それが現在ではいくらになっているのですか。また、プライマリーとセカンダリーでの価格差はどうなっているのですか。

K: 作家の人気に合わせて8年間で少しづつ値段を上げていった結果として、2003年の個展では同じくらいの大きさのドローイングを65万円で販売しました。したがってプライマリーの中ではおおむね20倍の上昇ということになります。一方、セカンダリーにおいては、今年の5月に行われたクリスティーズ・オークションで奈良さんの、やはり同じくらいのサイズのドローイングが出品されていましたが、こちらは3万3346ドル(日本円にして360万円前後)で落札されていました。当然これには落札のための手数料なども加わるわけです。

T:セカンダリー・マーケットがしっかりしていることは、アートという買物の持つ長所と言えますが、同時にプライマリーとセカンダリーの価格バランスが出来る限り適正に保たれていることが望まれるわけですね。タグボートが目指している、安心して気軽にアートを買える市場作りということは、この部分も含まれるということですね。

K: そう。だから一度セカンダリー・マーケットという「市場」に出た後の動きは私たちプライマリー・ギャラリストがどうこう言えるものではありませんし、原則として市場が決定することです。市場での人気が高いということは大変ありがたいのですが、需要と供給の関係からみた今の値段の状況には少々困惑していますね。

 T:そういえば同じくセカンダリー・マーケットに関係したことで、最近奈良さんのいわゆる「贋作」が見つかったそうですね。

K:そうなんです。この間、奈良さんのドローイングをやはりセカンダリーとして扱っている某ギャラリーで買ったという人がうちに作品を持ってこられたのですが、見てみたらちょっと今までに見たことのない絵柄だったんですね。そこでその作品の写真を撮り、奈良さんに送って確認してもらったところ、「これは自分の描いたものではない」ということでした。こうしたことは初めてだったので、私としても驚いています。

 T:タグボートとしても今後より一層の注意を払っていかなければと考えていますが、参考まで小山さんのところではどのような配慮をしていらっしゃるか教えて頂けますでしょうか。

 K:私のところで販売する作品には、必ずプライマリー・ギャラリーの販売証明であるシールを必ず額の裏面などにつけるようにしています。またセカンダリーで流通している作品は、元を辿ればプライマリーのギャラリーから出ているわけなので、流通の途中にて意図的に剥がしたり、額装を変更したりしない限りは、そうしたシールが必ずついているはずです。また、当然のことながらプライマリーのギャラリーでは取り扱い作家の作品について、本物かどうかを鑑定する業務を行っています。

 T:本日は非常にためになるお話をありがとうございました。小山さんがおっしゃったように、アートを安心して気軽に買うことが出来る市場作りのために、タグボートもお客様に貢献していきたいと考えています。その自覚に立って、適正な価格設定や作品の真贋のチェックなど、これまで以上に気を配って行っていきたいと思います。