![]() |
|
|||
2004年5月9日 ニューヨーク到着 |
| 現地時間で9日の午後、無事にニューヨークに到着しました。 夕方はクリスティーズのYさんとディナーです。 オークションではコンテンポラリー部門の売上が印象派・近代に匹敵するほどなのに、日本のお客さんは後者に興味を持っている人が多いとの事。これはNYと日本の時差を示しているのだろうか? いずれは今コンテンポラリーと呼ばれているものも長い眼でみればもコンテンポラリーではなくなるのだから、日本でも人気が出てくるのは時間の問題だろうか。いずれにせよ、グローバリゼーションの中で「良いもの」は必ず伝達され、価値が認められるのだから、「これがいい」と思ったものは自信を持つべきだと思う。 ヨーロッパのコレクターは作品を売り買いするのに、金利の状況と常ににらめっこしているらしい。彼らにとっては、アートはヴィジュアルを楽しむものだけでなく、分散投資の一部らしい。さすが、と思った。 先週の印象派セールはピカソの作品で盛り上がったらしい。「あんなお金を払ったのは、アメリカ人のXさん? それともシンガポール華僑のYさん?」などゴシップが飛び回っているらしい。Yさん曰く、今の状況はバブルっぽい、とのこと。これは現在のアメリカの好景気の反映なんだろう。景気が良くなるのを先読みして株価などが上昇し、不動産も値段が上がるが、そのサイクルの中の遅行指標がアート市場らしい。日本でもそのうち、この景気の波のインパクトが目に見えてくるのだろうか。 |
![]() リサ・ライターの作品 |
2004年5月10日 クリスティーズを下見 |
| 午前中はクリスティーズのコンテンポラリーアート・オークションの下見に行きました。クリスティーズのオークションと言うと非常に敷居が高く恐れ多い感じがしますが、下見は誰でも入れます。
作品を見るのはもちろんですが、下見に来ている人を観察するのも興味深いです。スーツを着ている男性が2人寄り添って作品を見ているのを目にすると、「これはお客さんにディーラーがいろいろ薦めているのかな?」などと、勝手に想像を巡らせます。また下見の会場で携帯電話とメモ帳を握っている人を見ると、「この人はお客さんに報告しようとしてるのかな?」と思います。時にはお客さんと思しき1人の人の周りに、何人もの人たちが取り囲んでいることがあり、それはきっとリッチなお客さんに違いない! と分かるわけです。 会場ではオークションに出品されるすべての作品が飾られているので、じっくり見ようとすると少なくとも2、3時間はかかります。作品数を数えるだけで、海外の市場の層の厚みを感じます。下見会場で作品を見る楽しみは、素晴らしい作品を間近に見られるというだけでなく、値札も見られることです。作品を見て、「これは××××ドルぐらいかな?」と想像するのがまた楽しいのです。 オークション会場を出た後、ロングアイランド郊外のULAE※を訪問しました。田舎の風景が残るとてものどかなところで、スタッフとアーティストとランチを食べました。ULAEではいつもアーティストがスタジオに製作をするために来るので、みんなで一緒にランチをとるようです。今日はキャロル・ダナムさんでした。前回会ったときのように、知的な雰囲気を醸し出していました。その後スタジオや作品を見せてもらいました。 (※:ULAE : Universal Limited Art Editionsの略称。1957年、ニューヨーク州ロングアイランド、ウェスト・アイスリップに設立された、アメリカ現代版画を代表する工房のひとつ。ジャスパー・ジョーンズ、ロバート・ラウシェンバーグ、ジム・ダイン、テリー・ウィンターズなど著名作家の代表的な版画作品を数多く手がけている) マンハッタンに戻ってからModern Cultureに作品を見に行きました。ここは先日タグボートでも作品を入荷したばかりの、エリザベス・ヤングなど若手の注目作家を数多く扱っている画廊です。 今日は調達はゼロです。「この作品は絶対イケそう!」とか「お客さんが喜んでくれそう!」という作品を見つけるのは難しいです。質が高く、かつお値段もお客様に手の届く価格帯を求めているので、妥協せずにいい作品を頑張って探してきます。 |
![]() ウィリアムズバーグの景色1。新興ギャラリーが集積するニューヨークでも一番アートシーンがホットなエリア ![]() ウィリアムズバーグの景色2 |
2004年5月11日 〜チェルシーでギャラリーめぐり |
| 朝は10時からPace
Printsを訪問。非常にお得な一点をすすめていただく。ブリジット・ライリーのSylvanという作品です。これは在庫の中の残り1枚で、同行したボスにOKをとり、その場で買取りしました。とても美しくかつミニマルな感じながら、スタイリッシュさを持つブリジット・ライリー。日本の皆さんに早くお届けしたいです。
11時からはチェルシーのRed Dotというギャラリーを訪問。セカンダリー作品を扱っているギャラリーで、〈たかのあや〉など新しい感じの作家をたくさん扱っています。こちらからは先日奈良さんの1点モノの作品を購入したのですが、日本ではなかなか手に入りそうにもない貴重なものが多数あり。封筒に描かれた奈良さんのドローイングも10枚ほどありました。 またここでは注目の若手作家リサ・ライターのプリントが一枚ありました。彼女はほとんとプリントを作らないようなので、手ごろな価格帯で彼女の作品をゲットできるいいチャンスのようです。同行したボス曰く「ノスタルジーを感じるが、今っぽいエッジ感と上質感がカッコイイね」とのことで、これも即調達です。 その後、写真作品を扱っているYancey Richardson Galleryを訪問。メイプルソープの作品(花シリーズ)は、残りはわずか2作品とのこと。「Gardenia」という作品が魅力的だと思いますが、気になるお値段は6500ドルと決して安くはない。ですがメイプルソープの花作品としては非常にリーズナブルです。とても美しい絵柄で、見れば見るほど美しく見えます。実物は現在シカゴにあるらしく、金曜日になればN.Y.に到着するとのことなので、ぜひ見たいと思います。またハーブ・リッツの作品もありました。タグボートで写真を扱い始めるとしたら、最初はやはり評価と価値のしっかりした大御所から扱うのがお客様にとっても安心だと思うので、この辺りの作品をきちんと見ておこうと思います。 その後はSOHOにベースをかまえる気鋭のディーラー、グレン・ドラノフとランチミーティング。奈良さんの「Star Island」があと1枚あるようなので、そちらを購入。また前からイチオシとすすめられていたJulian Opieの作品が残り僅かなので、購入することにしました。 ランチでは彼のお気に入りのレストランに行きましたが、メニューがとても面白かったです。ツナ・サンドイッチとメニューには書いてあったのですが、頼んだらそれはグリルしたマグロとワサビでした! これをオーダーしたのは「ボス」! 午後はチェルシーめぐりで大御所中の大御所、トニー・シャフラジの新しいギャラリーやGagosian Galleryを見てきました。 |
![]() 奈良美智の作品 ![]() 奈良美智 封筒に描かれたドローイング |
2004年5月12日 〜サザビーズ・オークションの下見 |
| 午前中はサザビーズ・オークションの下見。 非常に大きな体の目立つ男性(かっこよかったです)を発見! 横にはサザビーズの顧客担当の男性が一生懸命セールストークをしていました。お客さんはヒップホップの歌手かと思いましたが、実は有名なフットボールの選手らしい。非常に大きなへリングの作品が気に入ったようです。(3X5mぐらい)興味深い光景でした。 アイストームとのミーティングを兼ねてランチ。 アイストームのスターティングメンバーの男性が、あまりにも鼻息が荒いのに驚きました(これは比喩です)。最近アイストームはBritartという会社を買収したらしいです。Britartという会社は若手アーティストのオリジナル作品の販売をしているらしい。若手アーティストたちは、自分たちからBritartにアピールして作品を採用してもらい、将来は自分たちの作品がアイストームに採用されることを夢見て頑張るらしいです。 午後はGerman Expression.comのN.Y.オフィスに行ってきました。こちらは最近リヒターの作品を3枚購入したところです。小さなアパートで小柄な女性がドイツギャラリーのN.Y.オフィスを運営している、とのことです。このグローバリゼーションの中でも、ヨーロッパとN.Y.をつなぐ意義がある、ということをお話されていました。そもそもN.Y.オフィスの設立はアメリカの作品をヨーロッパに紹介するためだったのですが、実際始めるとドイツの作品がN.Y.で売れることの方が多かったので、今はドイツ人作家をアメリカで販売することにむしろ力を入れているとのことです。 |
![]() Bruce Personの作品 |
| Brooke
Alexander Editionsのオフィスに行ってきました。ブルック・アレキサンダー氏は相変わらずのダンディ! ロバート・ロンゴの作品「Arena
Brains」の由来を聞いてきました。現在は業界の重鎮となった某大手画廊主が駆け出しの頃、ブルックからお金を借りたものの返済しないので、怒りに狂ったブルックが体当たりで「金を返せ!」といったら「金がないから作品で返す」ということになったようです。だからブルックの頭は炎になっているのだ!
Ronald Feldman Fine Artsに初めてアプローチ。N.Y.アート界の重鎮でもあり、大変緊張しました。Ronaldさんはとてもダンディーな感じです。クラシックな作品が多いBrookeとは対照的で、新しい作家も積極的に扱っている模様。非常に美しいカールファッジの作品を見てきました。営業の女性がとても丁寧で、作品についての解説がしっかりしていて、さすが大御所という感じでした。 |
2004年5月13日 〜アーティスト達からみた日本 |
| 朝からチェルシーへ直行。チェルシーへ移動する最中、タグボートのオフィシャル・アドバイザーであるS氏※から非常に有益なアドバイスを頂きました。オークション終了後、エスティメート(落札予想価格のこと)と落札価格の乖離の大きい作品がある場合、その原因について調べると市場の動向が見えてくることがある。またそれが若手の作家であれば、その出所をチェックすると、どの画廊が面白い作家を発掘しているかがわかり、その画廊のホームページを見て、次に出てくる面白い作家をいち早くおさえることができる。それらを記憶に叩き込み勉強していけば、きっといつの間にか知識が倍増していくに違いない、という話。 チェルシーではピーター・ハリーのスタジオを訪問。最近彼は、イタリアの銀行の美しい部屋の壁に作品を描いたとのこと。ヨーロッパ人はさすがにセンスがいいな〜と思うのと同時に、そういう美しい環境の中で働いてみたいと思った。彼のスタジオにかかっていた版画を目ざとく見つけて(!?)、「これが欲しい」と頼んだらラッキーなことに販売してくれるらしい。洗練されたデザインの作品なので、家に飾るのには最適なのではなかろうか? 午後はEdition Schellmanを訪問。アートをカタログ販売をしている会社である。自社でも作品の版元になっている一方、他社の作品も調達して、非常に優れたセレクションを持っている。お客様は作品をカタログから買うわけだが、ほとんど返品がないようである。やっぱり実際作品が届いた際に本物を見ると、カタログよりずっと綺麗なのであろう。 |
![]() ピーター・ハリーのスタジオにて。 |
| その後、SOHOに向かい、Parkettを訪問。Parkettは同名のアート雑誌を25年にわたって出版しており、作家特集を中心にした雑誌である。雑誌を販売するごとにオリジナル作品も出しており、特徴を持ったビジネスをしている。この会社がどのようにして始まったかというと、美術大学を卒業した5人の仲良しグループが「卒業したら一緒に何かをしよう!」と生まれたビジネスらしい。昨日と一昨日の、オークションの盛況のおかげで、値段が跳ね上がった作家の作品を買いたい、という問い合わせが多いようだ。このような現象は正に人間の心理の現れだと思う。
次にRonald Feldmanを訪問。昨日訪れた後にFeldmanのホームページを見ていたら、非常に魅かれる作品があった。黒い背景に炎が描かれた作品だ。人間は原始時代から炎と接していたから、現代人にでも強く訴えるものがあるのだと思う。この作品はRico Gatsonという作家のもので、Studio Museum Of Harlemも買い取ったらしい。炎を見つめ続けると、人間の形がうっすら浮き上がってくる。作家は大柄だけど、口数が少ないシャイな人らしい。しかし彼の作品には力強さを感じる。(彼の略歴を見ると、ブルックリンのウィリアムズバーグのモメンタとピエロギからFeldmanに引き抜かれたようだ) |
![]() Ronald Feldmanにて。Rico Gatsonの作品。 |
| 夜はartnetのライターであるチャーリーとアーティスト3名と夕食を食べた。最近売れっ子になりつつある若手アーティストたちだけに、「最近のショーでは作品が売れ切れだったの」、「私のギャラリストはアーティストをすごく大切にするし、注目の作家を育てた実績があるから、私はすごくラッキー」のような会話が飛び交っていた。みんな日本のユースカルチャーやファッションに非常に強い興味を持っているらしく、日本はビジュアル的には最も刺激的な都市だ、と言っていた。 |
2004年5月14日 〜アーティストのスタジオを訪問 |
| あっという間にN.Y.での最終日が来てしまった。 朝はアーティストのスタジオを訪問。チャイナタウンのMilree Hughesという作家のスタジオを訪ねた。私は彼の作品が大好きだ。この仕事に就いてN.Y.を何度か訪れたが、一番印象に残ったのは彼の作品である。Matthew Ritchieのテクニックと同じで、複数のレイヤーの上に立体視用レンズを乗せると、見る角度によって違うイメージが浮かび上がってくる。Milreeの作品はモネのような優しくて淡い表情を持ちつつ、時にはとげとげしい激しい表情を持っている。また万華鏡がフラットになったような美しさを持っている。そのような作品を作っているMilreeはとてもクールなイギリス人のジェントルマンです。 彼のスタジオのとなりにはKarin Davieというアーティストのスタジオがあります。KarinはMilreeとは対照的で、情熱の塊という感じの人物だ。彼女の作品は、エネルギーがキャンバスに向かって体当たりされたかのように見える。1回ペイントし始めたら、呼吸をしてはいけないほどの即興性を持って描かれた、という雰囲気が作品から醸し出されている。彼女は現在、かの有名な Mary Boone Galleryに所属しており、評価が上がってきている注目の作家です。 午後からブルックリンのウィリアムズバーグを歩き回るために、エネルギーをつけるべくチャイナタウンのレストランに駆け込んだ。一人分のチャーハンが3人分ほどの量だった。膨れ上がったお腹をかかえて、地下鉄に乗りブルックリンに移動。 ウィリアムズバーグはマンハッタンから駅一つなのに、まったく違う風景だ。新興ギャラリーが30件ほどあるのだが、全てユニークで若いエネルギーに溢れている様子が非常に楽しい! 時には展覧会に出品しているアーティスト自身が電話番をしていたりして、その親密な雰囲気もたまらない! 長年苦労してやっとウィリアムズバーグにのし上がれた、というような達成感が彼らの顔からは滲み出ていて一生懸命作品を説明してくれるので、ついつい応援したくなってしまう。彼らの中の一握りがGagosianなどの大御所に発見されて、いつかは有名になっていくのだろう。今のうちに作品を買っていれば、何十年後かにはオークションに出せることも夢ではないのだ! |
![]() Milree Hughesのスタジオにて。手前が我らのボス。スーツ姿の紳士がS氏。 |