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海外アートフェアレポート アート好き3姉妹が行く! ビギナーのためのベネチア・ビエンナーレの歩き方
アート好き3姉妹が行く!ビギナーのためのベネチア・ビエンナーレの歩き方(文・オカエミ)
このたびは雑誌編集者をなさっているオカエミさんにベネチア・ビエンナーレのレポートをお願いしました。プロダクトデザイナーをされているアヤノさん、フリーキュレーターのマサコさん、そしてエミさんと“アート好き3姉妹”が見た今年のベネチアをどうぞお楽しみください。
写真1
イタリア館のファサードを埋め尽くす文字は、実はバーバラ・クルーガーの作品。バーバラは今年のビエンナーレで生涯業績部門の金獅子賞を受賞した。
写真3
日本館では写真家・石内都の作品が大理石の床によくマッチして、日本らしい静寂をつくり出していた。コミッショナーは笠原美智子が務めた。
「暑い〜、暑いよ〜」。一昨年のヨーロッパ熱波再来か? と思うような灼熱の太陽の中、行ってきました、イタリア、ベネチア、ビエンナーレ! 今回が初のベネチア・ビエンナーレ見物となる私たち3姉妹は、初っ端からイタリア国鉄お得意の“テクニック・プロブレム”(遅延理由の常套句)の洗礼を受け、結局1時間遅れでサンタ・ルチア駅に到着。ホテルにチェックインして一息ついたら、すでにビエンナーレは閉館間近の時間。「明日集中して回ろうよ」なんて、後にしてみればのんきだった私たちは、ちゃっかり1日目はベネチア観光としゃれ込んだのでした。

親切な地図はくれません

ベネチア・ビエンナーレの概要を簡単に説明すると、会場は大きく二つ。ひとつは、28カ国のパビリオンと、年毎に選ばれたディレクターによる企画展示が行われるイタリアパビリオンから構成されるジャルディーニ(GIARDINE)会場。そしてもうひとつが、造船所跡地で開催され、こちらもディレクターによる企画展になっているアルセナーレ(ARSENALE)会場だ。ベネチア・ビエンナーレの歴史は古く、1895年の初開催以来、今年でなんと51回目。世界各地で開催される国際美術展の中でも、規模、質ともに、最も注目されるアートの祭典である。これだけ何度も開催していれば、気の効いたマップのひとつでもあるかと思いきや、インフォメーションセンターでもらえるマップも、会場でもらえる案内も、いまいち分かりづらい。
写真2
ビエンナーレを巡るなら、イギリス館でもらえる「TATE ETC」のマップが便利(右)。
一番役に立ったのが、テートギャラリーが発行している「TATE ETC」とブリティッシュカウンシルが作っているマップ。2大会場以外で開催されている企画展やイベントの情報、ベネチアの足とも言えるヴァポレット(水上バス)の情報も入っていて、なかなか使える。まずはこれをGETすべくイギリス館を訪ねるのが得策だ。

昨日はすっかり観光気分だったので、いざ、アート鑑賞へと鼻息荒く出発した3姉妹。まずはホテルから程近いジャルディーニ会場へ。10時のオープンと同時に入場したせいか、人もまばらで、のんびりした雰囲気。そんな中、最初に向かったのは、我らが日本館。建築好きのマサコによると、この日本館はル・コルビュジエに師事し、前田國男らと同時代に活躍した建築家・吉阪隆正氏によって1956年に設計されたものだとか。中では、写真家・石内都氏の『Mother's』シリーズ38点と、床に埋め込んだ大型スクリーンを使って彼女の初期の作品『絶唱、横須賀ストーリー』(1977)、『アパート』(1978)、『連夜の街』(1981)から50点が展示されていた。1986年以来、日の目を見ることのなかった人工大理石の床を20年ぶりに復活させシンプルに作品を展示していた日本館。後から思うと、ひんやりとした石の床の質感と、静かながらも確固たる想いをにじませる石内氏の作品のコンビネーションは、派手さはないがその他のビエンナーレ出品作と比べても結構良かったのでは? という気がする。

今年のベネチアは笑える?!

今回、全体的な印象を一言で言えば、玉石混淆ということだろうか。特に目に付いたのは、「お笑い系」が多かったことである。

その中でもグッときたのは、イスラエル館のGuy Ben-Nerのビデオアート&オブジェ『Treehouse Kit』。そのストーリーとは−−ふと目が覚めると目の前には一本の木。よく見れば、幹には小さな引き出しが。その引き出しを開けると小さな工具が詰まっている。「おお、この木から家具を作ればいいのか」。静かにそう理解する男(Guy Ben-Ner)は、次々と木から家具を作っていく。DIYショップやイケヤなどで手に入りそうな家具(椅子、テーブル、パラソル、ベッド)がバラバラにされ、組み合わさってできている「木」、そうそれこそが『Treehouse Kit』なのだ。それを無表情と最小限の動作のみで組み立てていく男の姿は、私たちがナンセンス漫画のブームを経験した世代だからか、妙にツボにはまった。「『ハックルベリー・フィンの冒険』のようなアドベンチャーも、いまやキットで売られている時代よね」。そんなことを表現したかったどうかはわからないが、見飽きないビデオだった。

それから、とにかく目が点になった作品と言えば、ドイツ館。一歩館内に足を踏み入れたとたん、スーッと監視員が寄ってきて、「はあ〜、でぃすいずそーこんてんぽらりー、こんてんぽらりー、こんてんぽらりー(This is so contemporary)」とツーステップを踏みながら踊るのだ。歌い終わると、入場者数と思しき数字を言って、また静かになる。帰りがけには、難しい経済問題とアートの関係性について意見を求められるのだが、これが作品というから驚きだ。他にも、ロシア館では入場者が入ってくるとカウンターが作動し、スクリーン上の男女4人がだんだん前に動いてきて、最後に「どっひゃーん」と雪の上でひっくり返るという映像作品が。さらに韓国館では、アナウンサーがニュースを読んでいる映像を音節ごとに細切れにし、再度つなぎなおして、最初のニュースとはまるっきり無関係の内容にするという映像作品が紹介されていた。音節ごとにスーツが変わり、「このシャンプーで髪サラサラよ」と意味不明なことを喋るアナウンサーの姿がどうにも可笑しかった。
写真4
イスラエル館のGuy Ben-Nerによるビデオアート作品から。今回のビエンナーレではビデオアートの作品が非常に多かった印象がある。
写真5
ハンガリー館、Balazs Kicsinyの作品。 パジャマを着た潜水夫をかたどった彫刻。東欧の作品には、抱える問題の重さの中にもどこかユーモアのセンスが感じられた。