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「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」パブリックプログラム レクチャーシリーズより

スイスに本拠を置く世界有数の金融機関UBSの持つアートコレクションを紹介する展覧会「アートは心のためにある:UBSアートコレクションより」展(2008年2月2日―4月6日 六本木・森美術館)に関連して、3月10日、お医者さんコレクターお二人によるレクチャーが催されました。ともに精神科医の岡田 聡氏、高橋龍太郎氏は、熱心な現代アートのコレクターとしても知られていらっしゃいます。

出演:岡田 聡(精神科医、コレクター)、高橋龍太郎(精神科医、コレクター)
司会進行:片岡真実(森美術館キュレイター)
六本木・アカデミーヒルズ49 オーディトリアムにて

アート購入の馴れ初め

アートをコレクションするようになったきっかけは何ですか。

高橋龍太郎氏

高橋龍太郎氏 精神科医。1946年 山形県生まれ。1977年 東邦大学医学部卒業。1980年 慶応大学精神神経科入局。国際協力事業団の医療専門家としてのペルー派遣の後、1990年東京蒲田に、タカハシクリニックを開設、院長となる。2004年に自らのアートコレクションを展示する「高橋コレクション」を開設。

岡田 もともと絵描きになりたかったのです。しかし、医者になってしまった。だから自分の代わりにやっているアーティストを応援したいという気持ちが、作品を購入する動機です。それが結果的にアートのコレクションとなっていった。

高橋 私ももともとは医者でなくて小説家になりたかったのです。けれども、それだと上京させてもらえなくて、医学部に進むなら東京に行ってもいいと言われて医大に行ったんですね。ひそかに小説家を目指していたのですが、結局医者になってしまいました。それと大学の頃から美術も好きで、草間彌生が私のスターだったんです。5、6年前のことですが、オオタ・ファインアーツというギャラリーへ個展を観に行って、買える値段だ!と喜びに打ち震えて、最初は5回払いのローンで草間彌生を買いました。それから後一気可成にコレクターへの道を駆け上がっていきました(笑)。

岡田 今でもコレクターと言われると違和感があるんです。モノへの執着ではないから。他のコレクション癖もないですし。購入した作品の数々は作家に対する友情の証しだと思っています。

高橋 僕は根っからの収集少年。小学生時代は切手、中学生の時は化石少年、どちらも今も取ってある。コレクションの気持ちは今もずっと変わっていません。

作品に惚れる・作家に惚れる

作品を選ぶ基準は何ですか。

岡田 聡氏

岡田 聡氏 精神科医であり、現代美術コレクター。アーティストのサポートにも積極的で、展覧会の企画や、清澄白河でアートイベントスペースMAGIC ROOM?を運営している。アートプロデュース集団「アートアセファル」主宰者。

岡田 自分が作品を選ぶのでなく、作品から「呼ばれる」感じなんです。作品の意志に、自分の内なる何かが突き動かされる。

高橋 同感ですね。作品を前にすると、自分が広がったり、逆に自分が小さく感じられたりする。自分が“変形”していくような気分を味わわせてくれる。それに反応するんです。素晴らしい作品には大作家も若手・無名も関係ありません。

岡田 僕は圧倒的に若い作家を買います。可能性を感じるし値段的にも支援のしがいがある。オーソライズされた作家は僕がサポートしなくても……と思ってしまう。

高橋 岡田さんは作家と付き合うことが楽しいとおっしゃるけれど、同じアートのコレクターでもこんなにも違うのかと思います。僕はまったく逆で、作家と知り合いになりたいとは思いません。人間関係が出ることで、作家に気を遣うようなことになって、自分のコレクションに影響が出るのが嫌。だから作家のいない時に行って買います。「作品をして語らしめよ」がモットー。
同時代のビリビリとした感覚に向き合うことができる、それがコンテンポラリーアートの魅力だと思っています。自分と同じ時代同じ社会に生きている実感から、いつしか日本人作家を中心に集めるようになりました。

プライベートコレクションを公開

レクチャーの様子

岡田 最近展覧会というかたちで自分のコレクションを公開する機会がときどきあるのですが、〈9.11〉が直接的な契機となって、社会とアートの関わりを考え直すべきではないかと思うようになったことが関係しています。社会学者であり経済学者のマックス・ウェーバーの著述の中で「近代=脱魔術化した世界」とありますが、合理化された現代にこそ魔術が必要、そして芸術こそが今の時代において魔術的役割を為すものではないかという気がします。

高橋 私は志があるのではなくて、欲しい欲しいという、私的なわがまま一本槍です。だがそれが積もり積もると量が質になるという気がします。私は現在都内に2カ所、自分の コレクションを公開してお見せする「高橋コレクション」というスペースを持っています。さらに、この夏から、私のコレクションが、「高橋コレクション展」と銘打ち、鹿児島、さっぽろ、上野と3館巡回で美術館の美術展になるそうです。「プライベートもやり尽くすと公的な性格を持ち始める」。そんな気がしています。

アートは心を豊かにする

今回の展覧会は「ART IS FOR THE SPRIT」即ち、「アートは心のためにある」というタイトルですが、お二人にとってアートは精神的な支えになっていますか。

高橋 ええ、芸大卒業した人の中でも、アートだけで食べていける人、全国で10人もいない。各世代で2〜3人ではない!?天才ですね、そうなる人というのは。そんな天才に出会えて、しかも所有して自分の枕元に置ける。通常、美術館の壁にかけてあるよりも、ずっとそれに会えるのが苦痛なわけがないですね。展覧会のタイトルにかけて言えば、アート表現というのは、よく言われるヒーリング、癒しのようなものというよりも、人間の精神の高められた状態のもの(spirit)を言うと思っています。アートとは崇高なもの。

岡田 私は反対、アートの魅力はやっぱり人ですね。崇めるのでなく、一緒に語り合う、酒を飲む、それが楽しいんですね。それとつまるところ、人間の中にあるどろどろとしたものを知りたい。アートとは人の中にある怪物性表出物だと思う。人間を知りたい、あるいは、自分自身を知ってみたいという欲望に帰着するのではないだろうかと思いますね。

-- コレクションに対する考え方は対照的ですが、アートに対して真摯な思いを持っているお二人だということは改めて伝わってまいりました。本日はありがとうございました。

取材/文:安田洋平
撮影:桜井ただひさ
写真提供:森美術館