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「現代アートという文化に投資すること」タグボートアートディレクター広本伸幸による現代アート講義

アンディ・ウォーホル、ダミアン・ハースト、ジュリアン・オピー、奈良美智など、有名作家の作品に囲まれる中、タグボートのアートディレクター広本伸幸による現代アートについてのレクチャーは始まりました。「アーティストに投資することが将来の日本の文化を豊かにします!」。その真意とは!?

アートは貴重な文化資源である

会場の南青山・クレアーレ青山 アートフォーラムには、アンディ・ウォーホルやジュリアン・オピーなど有名作家の作品が並べられた。

現代のアートが、今、中国や韓国あるいはインドなどで非常に人気が高まっていて、それまで土地などに投資をしていた人たちが、アートに投資をするようになってきています。日本にもこれからそういう時代がくると思うのです。

本日は何人かコレクターの方もいらしているんですけれども、その他の方でお家に絵を飾っている人いらっしゃいますか? まだ絵を買われたことのない方は、ぜひこの機会に考えてみようかなというお気持ちになっていただけたらと思います。日本全体の将来を考えたとき、資源の乏しい国というのはこれから一番力を入れなければいけないのは、文化、芸術といった領域ではないかと思います。

私は外国からのお客様を迎えるとき、「どこの美術館へ行ったらまとめて日本の現代アートを見ることができますか?」と聞かれて苦慮することがよくあります。お連れできるようなところが本当に少ないからです。日本の現代アートを一度に見渡せるような美術館はほとんどないに等しい。文化庁が管轄しているのは、国宝とか重要文化財とか、そういう古いものです。これからの新しい文化を応援していこうという体制はできていません。

西洋ではアートというのは文化全体を引っぱって行く、なくてはならないものと考えられています。その時代にある社会の状況や問題がよく見えて来るからです。ですから、そうした価値のあるものをきちんと保存しようという公共の動きがあります。あるいは、そうしたアートを自分の近くに置いておきたいという個人コレクターが数多くいます。今この時代につくられている現代アートが対象であればなおさらです。

自動車、カメラ、テレビなど、いわゆる生活製品は日本製が優れていますね。たとえば、海外に輸出されたトヨタの高級車が400万円で売られているとして、その製造原価が200万円を下回るということはないでしょう。ところが400万円の車に1年乗って下取りに出すと、たぶん半額以下になる。5年も乗れば、10万円かそこらになってしまいますよね。

これをアートに置き換えてみると、たとえば400万円で売っている油絵の原価はキャンバスと絵の具代、それから人件費をあわせても3、40万円くらいと考えられるのではないでしょうか。逆に言うと、原価40万円のものが400万円で売れるわけです。さらに、400万円で買った絵は数年経って半分の価値になってしまうのではなく、同じくらいの価格を維持するか、むしろ少しずつ上がっていくものが大半です。また数は限られてくるけれども奈良美智さん、村上隆さんの作品のように、最初の販売額の何倍もの値段になっていく作品もある。今では、奈良さん、村上さん、草間彌生さんの主要な作品は1億円を超えるまでになっています。

ウォーホル、昔はポスター価格だった!?

参加者の方々からは「初めて聞く話が多くて面白かった」という声が多く聞かれました。

ウォーホルが有名になった背景には、作品を買いやすくしたという点もあったのです。それまでの絵は、お金持ちのコレクターしか買えない高価なものだったのですが、ウォーホルはいかにたくさん良い絵をつくるかを考えた。シルクスクリーンという技術を使い、キャンバスにプリントして絵をつくっていったんですね。また紙にプリントした、いわゆる版画もたくさんつくった。そしてお金持ちはキャンバスの絵を高く買い、若いコレクターなどは版画を安く買えたのです。

事実、ウォーホルがつくった版画というのは、みんな数が多いです。たとえば1967年につくった「マリリンモンロー」の版画は全部で色違いの10種類があって、それぞれエディションが250枚。合計2500枚つくったんですね。1970年の「フラワー」は、やはり10種類で250枚ですから、2500枚。「キャンベルスープ」は、シリーズ1・2とあって、共に2500枚です。

「マリリン」「フラワー」それから「キャンベルスープ」1・2、この4種類だけで1万点つくっているわけです。最初に売られたときは、おそらく正確な記録はありませんがポスター並みの、数万円の価格だったと思います。

私は以前川村記念美術館というところで仕事をしていたのですが、ウォーホルの「マリリン」「フラワー」の版画を、1970年代初期にコレクションとして買いました。どちらも10点セットで350万円だったと記憶しています。

今ウォーホル1点でも350万で買えるものは、ほとんどないですね。みんな5、600万くらいしています。「マリリンモンロー」の版画は、今10点セットで1億以上しています。

若いアーティストを支援することが未来への投資となる

トークイベント終了後は、場所をカフェに移して懇親会が行われました。和気あいあいとした中でのおしゃべり。

おすすめしたいのは、これからの若手作家です。デイヴィッド・ホックニーという作家は、彼がまだ20代前半の頃、ロンドンの美大生時代に画商が契約をして、20代からどんどん絵が売れるようになりました。それと同じようなことが今の日本の作家にも少しずつ起こり始めています。若い、可能性のある作家に画商さんが着目して、それで契約をして、大学を出た後も定期的に作品を発表させていっている。作家にとっても、育っていく一番大きな条件というのは、絵が売れることだと思うのでこれはとても良いことです。

いきなり高いものを買うのは非常にお財布が必要でしょうが、まだそれほど高くない、日本でこれから活躍するであろう若い人の作品を買ってあげるということが、たぶん一番良い投資だと思います。

最初に申し上げました通り、アートというのは、日本にとって貴重な資源になるはずです。海外では、日本の若い作家の作品を、中国、韓国、それからアメリカの人が評価をし始めています。まず村上隆さん、奈良美智さんのような作家が評価されましたが、まだまだこれに続く次の若いアーティストが海外に出て行くことでしょう。そして作家の方からすると、一番必要なのがコレクターなんですね。アーティストを支援していくことによって世界へ輸出できる新たなメイド・イン・ジャパンが増えていく、そういう時代がもうすぐそこに訪れようとしています。本日は話をお聞きいただき、ありがとうございました。

取材/文:安田洋平

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奈良美智 草間彌生