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森美術館 アート講座「アートが社会にできること。これからのアートを学びます。2008-2010 MAMアートコース」第1回「あなたの中のアートが社会へ開かれる時」 出演:宮島達男

森美術館が開館5周年を迎える今年2008年から、国際的な金融機関UBSの協力のもと、3年間をかけて行う連続レクチャー・シリーズ、それが「MAMアートコース」です。アートを学ぶための本講座は、A(Art)、B(Business)、C(Culture)3つのテーマをかかげ、各界の方をお招きして、より現代アートを身近なものにしていくことを目指しています。

記念すべき第1回の講師は宮島達男氏。宮島氏はデジタルカウンターを使った作品で世界的に知られる作家です。近年は教育にも深く携わっており「柿の木プロジェクト」のワークショップなど、従来取り組まれてきた「生と死」というテーマに加えて、「平和」や「共生」にも言及したアーティスト活動をされています。

第1回「あなたの中のアートが社会へ開かれる時」 出演:宮島達男

会場の南青山・クレアーレ青山 アートフォーラムには、アンディ・ウォーホルやジュリアン・オピーなど有名作家の作品が並べられた。宮島です。よろしくお願いします。今日は芸術が社会に果たす役割について皆さんと考えていきたいと思います。そもそもアートは社会にとって必要なものなのか? という問いから始めましょう。人には経済活動、社会活動があり、それだけで十分なのではないか? という人も多くいます。けれどもアートは人間にとって必要不可欠である。そう私は考えています。

まず、目をつぶってこの音楽を聞いてください。これは、チン・コン・ソンという歌手による「ある春の朝」という歌です。大変に美しいメロディーですね。けれども訳詩を読みますと、「ある春の朝/一人の少女は/地雷を踏んで/ゆっくりと炸裂した…」、その歌詞はあまりにも悲惨な戦争の様子を伝えています。実はこれは40年前、ベトナム戦争の頃、南ベトナム人であるこのシンガーソングライターによってつくられた反戦歌なのです。

もしこの美しいメロディーがなかったら、このメッセージも届かないかもしれない。誰も聞かなかったかもしれない。私はそう思うのです。しかし、芸術になることによってメッセージは国境を越えて共感を呼んでいける。

今も地域の格差や環境の破壊、虐殺や貧困は、この世の中からなくなっていません。これからの子どもたちに立ちはだかる困難、それを打開するために必要なのはソウゾウ力ではないでしょうか? そして芸術は2つのソウゾウ力を育成できると思います。1つは imagineの想像力、もう1つはcreateの創造力です。他人の苦しみや悲しみを「想像」できるか。それができたら人は「行動」することができます。また既成概念にとらわれず新しいものを「創造」することは、人に生き抜く力を与えます。ソウゾウ力を磨くこと、すなわちそれは人間力を養うことに他なりません。

最近、私は「Art in You」というコンセプトを提唱しています。アートとは本来、見る人のなかに存在するものであり、作品とはそれを呼び覚ますための装置である。アートは見る人参加する人がいて初めて成立するものであり、もはや芸術家の側だけにあるのではない。あらゆる人の「中」にある、それを言い表したのが「Art in You」という言葉なのです。

時の浮遊 ホスピスプロジェクト(2000年)

Death Clock(2003年)ホスピスはご存知の方も多いと思いますが末期のがん患者の方などが多く過ごされている終末医療を施す場所です。私は秋田のあるホスピスにアートのプロジェクトを依頼されました。
しかし正直最初は何をすればいいのか戸惑いました。
「死」と向き合って毎日を過ごす人にどう語りかけて良いのかわからなかったからです。
けれどもきっかけをくれたのは相馬さんという一人の患者さんの「好奇心」でした。
その結果私は相馬さんと共同で作品をつくることになりました。
私がつくったのは、「時の浮遊」という、パソコンで制御しながら、部屋全体にプロジェクターで投影して0から9のデジタルの数字を空間に浮遊させる装置。
これをもとに相馬さんが、どんな配色やスピードで魅せるか、毎回違うアレンジを考える。
相馬さんは病院で過ごす日常に張り合いを失っていた。ですから「自分で何か新しいものを生み出す」ことに他では代えがたい楽しみを見出していたようでした。相馬さんは結局6つの作品をつくった後亡くなりました。
生み出すということは誰の中にもあり、そしてそれは生きる大きな原動力ともなり得る。嬉しそうに色の組み合わせを考える相馬さんの姿を見ながらそれを強く感じたのを覚えています。

Death Clock(2003年)

今の社会において生が軽いのは死がリアルでないからではないか。
あえて「死を感じる」ことを表現したいと考えてつくったのが「Death Clock」という作品です。
これは、世界中の人に「自分が死ぬ日」を設定してもらう、パソコン上のプログラムとして組まれたデジタル時計の作品です。ひとりひとりのDeath Clockがインストールされ、デジタルカウンターはどんどん刻まれていく。
さらに時計と一緒に映し出された自分のポートレート写真は、歳月とともに段々とフェードアウトしていき、0になった時、真っ白になりプログラムは自動消滅するというものです。
逆説的でありますが、アートがファクターとなり、自らの「死」と向き合うことで「いかに生きるか」を考える、そんな作品です。

時の蘇生・柿の木プロジェクト(1996年-)

時の蘇生・柿の木プロジェクト(1996年-)私が社会に開かれたアート活動をするようになった直接のきっかけがこの「柿の木プロジェクト」です。海老沼正幸さんという樹木医の先生がいらっしゃるのですが、この方は長崎で見つけた被爆した柿の木を再生させ、さらにそこから株分けした「被爆柿の木2世」を植える活動をされていました。1995年の展覧会の時に偶然知り合ったのですが、その活動に大変感動し、以来13年にわたり、この「時の蘇生・柿の木プロジェクト」を行ってきました。私は長年「時」をテーマに作品をつくり続けてきましたが、時とは命そのもの。ですからこの柿の木の命を継ぐ活動が、時を未来へつないでいくプロジェクトに思えたのです。

「柿の木プロジェクト」は現在も続いていますが、今では柿の木の植樹は20カ国179箇所に上り、いろいろな国の子どもたちがこの被爆樹2世の柿の木を自分の学校の庭に植えています。また、ただ木を植えるのではなくアートとしてそれを楽しむことで、考え、想像力を働かせながら平和や命の意味を学ぶきっかけとしています。「これは非常に素晴らしいアートだ。なぜなら私たちの悪意を打ち消し、良心をひきだしてくれるからである」。これは、ベオグラードでの植樹を申し出てくれた人が寄せてくれたコメントです。

私は開いたその心のなかに、被爆樹の柿の木を植えていきたい、そう思います。表現をすると、人の心が少し開くんです。

こういったところから、誰しも心の中にアートを持っている、「Art in You」というコンセプトが出てきました。そしてそれを開くことこそがアーティストの役割であるという考えに私は信念を持っています。その下に今後も活動を行っていきたいと考えています。本日は話をお聞きくださり、ありがとうございました。

(2008年5月23日 六本木ヒルズにて/構成=安田洋平)

■宮島達男プロフィール
 1988年のヴェネツィア・ビエンナーレに招待され、デジタル数字の作品で国際的に注目を集める。以来、国内外で数多くの作品を発表し、ロンドンのテート・ ギャラリー、ミュンヘン州立近代美術館、東京都現代美術館等に作品が収蔵されている。第2次世界大戦中に長崎で被爆した柿の木の「被爆2世柿の木」を子供たちとともに世界に植樹する「時の蘇生」柿の木プロジェクトの発起人。東京芸術大学大学院美術研究科修了。