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タカの部屋 人気写真家鷹野隆大が各界の著名人をゲストに迎えてインタビュー

第2回 笠原美智子x鷹野隆大「いい男論」 2008年8月9日 BOOK246にて

鷹野隆大がホストを務め毎回多彩なゲストを迎えて写真について存分に語る「タカの部屋」。第1回のテーマは、写真家の港千尋氏をお招きしての「反権力」でしたが、今回はうってかわって、「いい男論」でお送りします。ゲストは、ジェンダー(注)を切り口にした数々の写真展の企画で知られ、ベニス・ビエンナーレのコミッショナーも務められた東京都写真美術館の笠原美智子さんです。「いい男」を論じると、ジェンダーが見えてくる!?

(注)ジェンダー……男女に与えられている社会的役割
例)男性は会社で仕事、女性は家庭で家事

出演者プロフィール

笠原美智子さんとはこんな人

鷹 野 : 第2回のゲストとして、本日はキュレーターとしてご活躍されている東京都写真美術館の笠原美智子さんにおいでいただきました。まずは経歴を紹介がてら、これまでのお仕事について伺いたいと思っているんですが、生まれた年は……言ってもいいですか?

笠 原 : はい、もちろん。

鷹 野 : 1957年にお生まれになって、明治学院大学の社会学部を経て、その後アメリカに留学されたんですよね。そこで写真と出会ったんですか?

笠 原 : そうですね。シラキュース大学でフォトジャーナリズムの授業をとって、その後イリノイ大学に入り直してそこでも写真を学んで、最終的にシカゴ・コロンビア大学で写真の実技と写真論で修士号をとりました。

鷹 野 : そして89年に写真美術館に入られた。それからジェンダーをテーマにした写真展を企画されるようになり、最初が91年の「私という未知へ向かって──現代女性セルフ・ポートレイト」展ですね。 

笠原美智子さんが企画された過去の展覧会、1998年の「ラヴズ・ボディ──ヌード写真の近現代」より。パティ・スミスを撮ったロバート・メイプルソープの写真。

笠 原 : その頃にはまだジェンダーという言葉は流通していなかったですね。96年に「ジェンダー──記憶の淵から」展を企画したのですが、そのときでも「ジェンダーって誰?」と言われた記憶があります。

2005年の第51回ベニス・ビエンナーレ、日本館で展示された写真家・石内都の作品「MOTHER'S」より。

鷹 野 : 笠原さんが企画する展覧会にはジェンダーをテーマにしたもの以外に、現代日本の写真家を特集したものと、アメリカをテーマにしたものがありますが、ジェンダー系として次に来るのは、98年の「ラヴズ・ボディ──ヌード写真の近現代」ですね。この展覧会は当時非常に話題になったのでよく覚えています。さらに2005年には第51回ベネチア・ビエンナーレ日本館のコミッショナーもされていらっしゃいますね。

笠 原 : ベニスでは石内都さんの「MOTHER'S」シリーズを個展で見せました。日本の文化背景を説明せずともストレートに伝わるものということ、またこうした国際展では衝撃力がとても大事なので個展の形で見せたかったということがありました。石内都さんの「MOTHER'S」は、それまで親子の関係性だけで語られていた母を、ひとりの女性として、つまり恋もするしセックスもするし、いろんな悩みも抱えている女性として捉え直された写真で、私自身初めて出会ったときとても強い衝撃を受けたことを覚えています。


男性は女性より賞味期限が短い!?

鷹 野 : さて、ここからが本題です。お聞きのように、笠原さんは女性についてはたくさん語っていて、展覧会も基本的には女性がメインです。じゃあ男について語ったらどうなるんだろうというのが僕にとっては長年の疑問で、今回はせっかくの機会なので、無茶を承知で男性について語っていただこうと思います。実は笠原さんは映画がお好きで、かつ昔からアイドルがいらっしゃったとか。

笠 原 : 基本的に面食いなんです、私は。

鷹 野 :あらら、のっけから来ましたね(笑)。というわけで今日は映画をネタに笠原さんのアイドル遍歴を見ていこうと思います。まずはロックミュージカル映画『ロッキー・ホラー・ショー』のティム・カリー。

笠 原 : これは公開が75年、ちょうど私が18歳のときです。この映画のストーリーは保守的な価値観を持った若い男女が非常に柔軟なセクシャリティの感覚の持ち主である彼に会って、いろんな経験をして成熟した大人になるという話なんですが、私が高校時代に好きだったロックバンドのクイーンもそうでしたが、トランスジェンダー(注)的価値観が当時から今にどこかでつながっていますね。

(注)トランスジェンダー……生まれながらの性別を越境・超越する人のことを指す。

鷹 野 : このティム・カリー、実に色っぽい!僕は笠原さんの歴代アイドルのなかで、彼に一番反応しますね。で、次が『レス・ザン・ゼロ』のアンドリュー・マッカーシー。

笠 原 : この頃のアンドリュー・マッカーシー、すごく綺麗で好きなんです。でも『セント・エルモス・ファイアー』まであんなに綺麗だったのに、5年後、他の映画に出ていたのを見たら、嘘!っていうくらい違う。男の人の賞味期限って女よりも短いんです。
これは映画の話だけじゃないんです。女性は良くも悪くも見られる存在として社会に生きているので、時間もお金もエネルギーもかけてメンテしますね。でも男は何もしないからすぐイケてないオジさんになっちゃう。男は顔じゃなく中身だっていう、努力しなくてもいい文化がそこにはあると思います。男性にはお金や地位、家族の枠組みといった武器が与えられているけれど、逆に女性はそういうものから疎外されてきたから、個人のところで努力するわけです。それぞれの社会における存在価値のつくられかたといいますか。最近の日本の男子は見え方にも気を遣うようになりかなり変わったと思いますが、いずれにせよ男も女も綺麗でいる努力というのは、ただ外見だけの話ではなく社会的にも影響してくるんじゃないかと思います。

鷹 野 : 確かにそういう非対称さはありますね。でも、最近の日本の男の子はどんどん見栄えを気にするようになっているので、少しずつ社会が変わっていきそうな気もします。それにしても、この映画のときの彼はベルナール・フォーコンの写真に出て来る男の子みたいな、人形のように綺麗な顔をしていますね。では次、ヒュー・グラントです。ヒューが好きっていうのは、どの辺が?

笠 原 : 『モーリス』のヒュー・グラントをぜひ見て下さい。この世のものとは思えないほど綺麗なので。しかしヒュー・グラントは、汚いオジさんになることなく美少年が素敵に育った稀有な例なのです。

鷹 野 : なるほど。でもヒュー・グラントの役どころって、『ブリジット・ジョーンズの日記』でも『ラブ・アクチュアリー』でも、共通してちょっとダメンズが入っていますよね。その辺はどうなんですか? 

笠 原 : 理想でしょう。『ブリジット・ジョーンズ』ではダニエル・クリーヴァーっていう編集長役なんですけど、まさに顔だけ良くて中身が何にもないっていうヒュー・グラントそのものですよね。彼はイギリスで唯一、独身でみんなが許しちゃっている存在では。ヒュー・グラントなら馬鹿やっても仕方ないか、という。ただ、『ブリジット・ジョーンズ』は、本当はヒュー・グラントから読んじゃいけない。フェミニストとしては、全然違う読み方があるのですが……(笑)。

身体性とバーチャルな恋愛の関係

鷹 野 : 分かりました。次に行きましょう。次はレスリー・チャンです。

笠 原 : ウォン・カーウァイの『ブエノスアイレス』やチェン・カイコーの『さらば、わが愛/覇王別姫』に出ている香港の映画スターです。レスリーは2003年に自殺してしまったのですが、今でも非常に世界中にファンが多い。彼はゲイなんですが、本当にこの世のものとは思えないような色っぽさを持った稀有な役者ですね。今画面に出ている『覇王別姫』の時のレスリー、もう37歳でした。

鷹 野 : ええっ!嘘!

笠 原 : 立ち居振る舞いひとつとっても本当にエレガント、つい目に止まるような美しさです。

鷹 野 :ほんとにそうですね。映画の中で顔に手を当てるシーンがあるのですが、そのときの指先が、ほんとに気品があってうっとりしてしまいます。と、ここまで駆け足で見てきましたが、いよいよ笠原さんが現在の本命と語る香港スター、レオン・ライです。実は日本ではこの人の映画があまり見られないんですが、たとえば『ラブソング』という大陸から香港に出て来た男女が恋におちる映画があります。レスリーからレオン・ライに心が移った理由は?

笠 原 : レオンはこれまでのどの俳優とも違う、別格の存在なんです。ヨン様が流行った当時、私はまったく理解できなかったけれども今はよく分かる。
なぜかと言うと、バーチャル・レオンの方がリアル男より良くなっちゃっているから。私は身体性ということをずっとテーマにしてきていて、今度10月に行う展覧会も「on your body」のタイトルで身体論を扱っています。
でもこと恋愛においては、私が今まで経験してきたリアルな恋愛の感情と、今レオンに対して抱いている非常にピュアな何も求めないそれと何が違うのかというくらい、バーチャルとリアルの境界線がなくなってきています。

鷹 野 : 具体的な身体接触がないだけっていうことですか?


アリゾナ/アメリカ(1994年)
(c) 鷹野隆大/Takano, Ryudai
Courtesy:ZEIT-FOTOSALON/
Yumiko Chiba Associates

笠 原 : そう。どうせ飽きっぽいから、いつレオン・ライに興味がなくなるのか、そこは分からないんですけど、でも、恋心がいつかなくなるっていうのは恋愛の常なわけじゃないですか。

鷹 野 : 相手はバーチャルでも、リアルな恋をしているということですね。さて、スライドはこれで終わりですがどなたか会場の方でご質問ありますか?

―― 私はドイツ人で、ベルリン出身です。笠原さんとは同年代ですが、若い頃ヨーロッパでもフェミニズムの運動が広がり、その影響を受けて育ったと言えます。そして今ドイツでは、そういう世代が親になり社会を引っ張って行く年代になり、結果として社会的な男女の平等について良いバランスができている気がします。笠原さんは、日本の社会の中でもフェミニズムが浸透してきたという実感はお持ちですか?

笠 原 : その質問に対してはイエスでありノーですね。私は結婚もしていないし、子どももいないですが、おそらく田舎でそれをしていたら相当なプレッシャーだったでしょう。けれども今の若い女性は、主婦になろうがワーキングウーマンであろうが、独身でいようが仕事をしながら子供を産もうが、プレッシャーがまったくないとは言わないまでも、確実に選択の幅は広がっています。さらに、男性が自分の身体のことを気にし始め、料理を普通につくり、共働き家庭が増え、そしてカップルはいろんなことを共同で行うスタイルになってきました。だからカップルの価値観の中では、平等な関係になってきていると思う。だからその意味ではイエスです。

しかし一方で、そうした価値観を日本の社会がシステムとしてはバックアップできていないと思います。たとえば年収300万円を切る男性が増えてきてようやくワーキングプアの対策が必要などと言われていますが、女性なんて20年来、300万円以下のパートタイマーばかりなわけで、女性の問題である限り社会問題化されないという国のあり方は変わっていません。そういう意味ではノーですね。

鷹 野 : システム。確かにそうですね。日本の社会はそういうことが苦手な気がします。

笠 原 : それと、私は今50歳なんですね。先ほど日本はロリコン社会で、女性の若さを過度に評価する社会と言いましたけど、一方でそれは成熟を楽しめない社会というか、すなわち40、50の女性自身が出会いや恋愛を語ったりする機会がそれほどないんですね。それは欧米との違いだと思う。40になっても50になってもそれ以上でも恋愛するし結婚するしデートするというのが当たり前と思うのですが、日本の場合は、夫婦でもセックスレスで今さら妻とするのは何だみたいなことを平気で言う男性の言説が大勢なわけで、そうなると女性は隣りにいる古い旦那よりもやっぱりヨン様の方にときめくに決まっています。若い時にはジャニーズ、年を取ってヨン様に行っちゃうっていうのは、もしかしたら、セクシュアリティの貧しさに起因しているのではないか、そういう気がします。

鷹 野 : なるほど。今日は笠原さんに「いい男論」をお聞きしてきたわけですが、笠原さんの著作『ヌードのポリティクス』(98年)に出てくる、「フェミニズムは男女の対立をあおるためにあるのではなく、互いに理解を深め、よりよく愛するためにあるのではないか」 という論旨を思い出しました。本日は非常に楽しい2時間をどうもありがとうございました。

(2008年8月9日 南青山Book246にて/記事構成=安田洋平)

 

ゲスト紹介

笠原 美智子(カサハラ ミチコ)
東京都写真美術館事業企画課長、明治学院大学非常勤講師。
1957年、長野県生まれ。明治学院大学社会学部卒、シカゴ・コロンビア大学修士課程修了(写真専攻)。

著書に『写真、時代に抗するもの』(青弓社)、『ヌードのポリティクス──女性写真家の仕事』(筑摩書房)、訳書にジョージ・レヴィンスキー『ヌードの歴史』(共訳、PARCO出版)、ジョン・バージャー『見るということ』(白水社)ほか。
おもな展覧会企画に、「私という未知へ向かって──現代女性セルフ・ポートレイト」展、「アメリカン・ドキュメンツ──社会の周縁から」展、「発言する風景」展、「はるかな空の下で──日本の現代写真」展、「ジェンダー──記憶の淵から」展、「アルフレッド・スティーグリッツとその仲間たち」展、「ラヴズ・ボディ──ヌード写真の近現代」展、「手探りのキッス──日本の現代写真」展、「風景論──日本の新進作家」展、「愛と孤独、そして笑い」展(東京都現代美術館)ほか。2005年には第51回べニス・ビエンナーレ日本館のコミッショナーとして写真家・石内都の個展「mother’s 2000-2005 未来の刻印」を企画・実施した。

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鷹野隆大プロフィール + ニュース

鷹野 隆大(タカノ リュウダイ)
写真家

1963年福井市生まれ、1987年早稲田大学 政治経済学部卒。1994年より作品を発表。2006年 写真集『IN MY ROOM』(2005年 蒼 穹舎刊)にて第31回 木村伊兵衛写真賞受賞。
セクシュアリティをテーマに他者との関係性を問い直す作品を発表している。
個展 2000年「ヨコたわるラフ」(ツァイト・フォト・サロン,東京)、2005年「Common Sense」(同)、2006年「In My Room」(ナディフ,東京)、2006年「男の乗り方」(ツァイト・フォト・サロン,東京)、2007年「毎日写真」(ギャラリーアットラムフロム,東京)など。グループ展に2001年 「手探りのキッス 日本の現代写真」(東京都写真美術館 他)、2004年「日常の変貌」(群馬県立近代美術館)ほか海外でも展覧会多数。
パブリック・コレクションとして、東京都写真美術館と国際交流基金、川崎市市民ミュージアム。
作品集として、『IN MY ROOM』(2005年 蒼穹舎)、”カ・ラ・マ・ル”シリーズによる『鷹野隆大 1993-1996』(2006年蒼穹舎)。
近年『新潮』(2006 6月号 pp.190−191)や『週刊朝日』(2006年 5/19号 pp.5-15)にエッセイが掲載されるなど文筆活動も行い、評価を得ている。2007年には「月刊たかのカメラ」と題し、エッセイを一年間連載した。
2008年度の展覧会として、個展“ぱらぱら” (6/6-7/3ツァイト・フォト・サロン,東京)、グループ展 “液晶絵画 スティル|モーション”(4/29〜6/15 国立国際美術館, 大阪、8/23〜10/13 東京都写真美術館, 東京)、 “Backlight 2008 Tickle Attack” (9月〜11月 Photographic Centre Nykyaik, タンペレ, フィンランド、他ヨーロッパ各都市)他。

ニュース

「液晶絵画」展チケットプレゼントのお知らせ

鷹野隆大さんも出品されている、2008年8月23日より東京都写真美術館で開催中の展覧会「液晶絵画」のチケットを抽選でペアで5組10名様にプレゼントさせて頂きます。ご希望の方は、メールの件名に「液晶絵画展チケットプレゼント希望(仮)」と表記し、お名前とメールアドレスを書いて、present@tagboat.comまでお送りください。当選はメールでお知らせさせて頂きます。(応募締切:08年9月30日 ※当選は発表をもってかえさせて頂きます。)

液晶絵画 STILL/MOTION
会期:2008年8月23日(土)-10月13日(月・祝)
会場:東京都写真美術館 2階・地下1階展示室

出展者
小島千雪/サム・テイラー・ウッド/ジュリアン・オピー/千住博/鷹野隆大/チウ・アンション/ドミニク・レイマン/ビル・ヴィオラ/ブライアン・イーノ/ミロスワフ・バウカ/森村泰昌/やなぎみわ(五十音順)

「液晶絵画」展の詳細はこちらをご覧下さい。(東京都写真美術館ホームページへ)
http://www.syabi.com/index.shtml


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バックナンバー

第1回 「反権力」 港千尋×鷹野隆大

鷹野隆大がホストを務め毎回多彩なゲストを迎えて写真について存分に語る「タカの部屋」。記念すべき第1回は写真家であり、同時に「記憶」「映像」に関する多数の批評書を著している港千尋氏とともにお送りします。テーマは「ブラジル」と「反権力」? 写真とブラジルと権力はどう結びつくのか!?

第1回インタビューはこちら >>

今後のスケジュール ※あくまで予定ですので、都合により変更する場合もございます。ご了承ください。

サイト公開 ゲスト タイトル 対談内容
10月 山本想太郎氏
(建築家)
「サッカーはアートを救えるか」 サッカーと、建築・写真の共犯関係、対立関係について解き明かす。
11月 竹内万里子氏
(写真評論家)
「パリフォト 現地レポート」 パリフォトの今年のテーマは「日本」。ゲストコミッショナーを務めた写真評論家竹内氏に話を伺う。

11月以降のゲストとして、ヴィヴィアン佐藤氏(非建築家)、宮村周子氏(ライター)、会田誠氏(美術家)を予定しています。

企画協力:YUMIKO CHIBA ASSOCIATES / ZEIT-FOTO SALON / BOOK246