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アートディーラー・塩原将志流 〜アートの楽しみ方〜

タグボートではお馴染み、「アート・オフィス・シオバラ」代表で、アートディーラーの塩原将志さん。 海外のアート状況を見て回り、お客様のニーズや嗜好に基づき、コレクションとして必要かを考えながら作品を調達してくる仕事をされています。その一方で個人的に欲しいと思った作品は、自らコレクションもしているとか。ご自宅でどんな風にアートを楽しまれているかをお聞きしました。

一番良い作品を買えるチャンス

――ご自分用にも結構作品は買われるのですか。

良いなと思った作家がいたら、まず自分で買って家で掛けておいたりしますよ。やはり身銭を切って買うから真剣ですよ。
それに、家に掛ければ毎日見るわけですから。
その中で暮らすというのはやはり大事でしょう。

――個人コレクションとしては1年にどれくらいの数の作品を買われていますか? また平均的な価格帯は?

10〜20点くらいですかね。価格帯は30万円以内が多いですね。
パッと見て気になった作家で30万円以内だったら直感で買うようにしています。

――塩原さんは、海外の美術関係者の間で話題になりだしている旬な作家をいち早く買い付けてこられている印象がありますが、そうした新進作家を買う醍醐味とは、どういうところにあるのですか。

評価の定まった作家の場合には、「あの作家の作品を買える・所有できる」喜びがありますよね。しかし競争率が高いだけに、良いものを見つけるのはなかなか難しい。
言い換えると、それだけに魅力が高いと言えます。一方、評価がこれからの段階にある作家なら、買い手市場なので一番良いものを自分が手に入れられるという「チャンス」が充実している。
そういうところも魅力の1つと言えると思います。

リビング。
ソファー上に掛かっているのは曽根裕、2008年のペインティング。
何でも絵のモデルが塩原さん自身だとか。右に掛かっているのはブラッドレー・マッカラム+ジャクリーヌ・タリーによる写真作品。




玄関にはゲイリー・ヒューム(Gary Hume)、それから奥には新宵太の作品が。

トイレは壁の色を変えて、掛ける作品もちょっと他の部屋と変えている。「お客さんが来てトイレに入ったときに、塩原さんこういう一面もあったのかって意外性を与えられるかなと(笑)」。今掛かっているのはスペンサー・チュニック(Spencer Tunick)。

「チョイスをたくさん持つ」ということ

Taka Ishii Galleryで取り扱っているアーティスト、加賀美健の作品。

――海外の最新の作家というのは、日本の作家に比べなかなか十分な情報が得にくいため、
興味はあるけれど買いにくいと思ったりもするのですが。

確かに日本のメディアで紹介される海外の作家の情報は少な過ぎるとは感じます。
しかしアートフェアにいけなくてもフェアのカタログを取り寄せるなども楽しいですし、そういうところから新しい情報をチェックしていけますよ。
もちろん日本の作家の情報は国内の方が断然あるわけなので、日本で日本人の作品を買う方がアドバンテージがあるのは間違いありませんし、日本人が日本の作家を積極的に買うのはもちろん良いこと。
作家たちも買ってもらうことによって続けていけるわけですから。
ただ、私は日本のものも見るし、海外のも見るし、つまりチョイスは沢山あった方が楽しいということです。海外の動向も知り選択肢が広くある中で作品を比べてみて、内容的にも優れているうえに価格的にも日本人の方が全然良い、ということであれば後者を買うわけです。

知的好奇心をいかに刺激されたか

――塩原さん自身はどういうアートが好みなんですか?

液晶テレビではピピロッティ・リストの映像作品が流れている。床の上に転がっているのは、草間彌生が屋外展示でたびたび発表している、「ナルシスの庭」のミラーボール。

一番の買う動機というのは「視点を変えられた」と思わせてくれた作品であるか、でしょうね。アートを買う一番の醍醐味とは、好き嫌いという嗜好的なことより、知的好奇心をどれだけ刺激されるかという点にあるのではないでしょうか。ときに、アートは人間そのものではないかと思うこともあります。たとえば人間が抱えている矛盾や、ナショナリティだとか、そういう普段自分が見落としている視点に、出合うことができる。作品の前に立つとそんなことを思うし、人とそれを話すのも楽しいわけです。

――ところでDVD のアート作品が随分ありますね。ピピロッティ・リスト、アシューム・ヴィヴィッド・アストロ・フォーカス、サム・テイラーウッド、永岡大輔、佐原和人……。 

これからは液晶テレビの壁掛けが当たり前になっていく時代。それまで壁に絵があったところに、液晶テレビが掛かる。そうなるとテレビはインテリア性を高めていくのと同時に、お客様が来たときなど、そこで流れている映像が何かでセンスが全然変わるだろうと思います。どうせ壁掛けテレビなら、いい映像を流していた方が雰囲気が出ますよね。
 
――実際、このところ若手の作家で映像の作品も手がけるという人が非常に増えてきています。ただ、映像のアート作品をコレクションする人はまだそんなに多くないですよね。

意外に知られていない。だからこそアドバンテージがあるうちに自分で買っておきたい。映像で発表する作家はかなり出てきていて、かつ、まだ良いものを手ごろな値段で買える時期だから今買おうと思うんです。

自分が一番気持ちいいと感じる絵の掛け方

廊下にはタグボートのDNATの作家、渡辺おさむの作品が。「彼の『絞る』手法でつくるアートは展開力がまだまだあると感じさせてくれて、そこが面白い」。
 

――絵を掛けるときにこだわられていることは?

見た瞬間に「気持ちいいかどうか」ですよね。詰まるところアートの魅力は、どれだけ自分を気持ち良くさせてくれるかじゃないですか。それは理屈では言えないけれども、掛けて見たときに、自分が一番気持ちイイと感じるポイントって誰しもあるんですよね。その一番を見つけ出すだめに、いろいろ展示替えしているのかもしれない。ベッドに寝転がってみて、あ、この角度がいいなとか。

気持ちがいいというところから始まって、そのアートを気に入って見ているうちに、ふと何か気が付くことがあって、また知的好奇心を刺激されて、という風に深まっていくのがアートを持つことの一番楽しいところなのでは、と思いますね。

――本日はありがとうございました

塩原将志さん。アート・オフィス・シオバラのオフィスにて、曽根裕の作品と共に。
(2008年9月5日
アート・オフィス・シオバラにてインタビュー/
取材・構成=安田洋平)