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タカの部屋 人気写真家鷹野隆大が各界の著名人をゲストに迎えてインタビュー

番外編 竹内万里子×鷹野隆大 「パリフォト」
パリフォトの会場となったルーブル美術館前で

「パリフォト会場/2008.11.13」
©鷹野隆大/Takano, Ryudai

鷹野隆大がホストを務め、多彩なゲストを迎えて美術や写真、その他諸々について存分に語る「タカの部屋」。
パリでおこなわれた番外編となる今回のトークのゲストは、写真評論家の竹内万里子さんです。
竹内さんは今年(2008)、欧州最大の写真アートフェア「パリフォト」でゲストキュレーターを務めました。毎回、パリのルーブル美術館の地下を使って開かれる同展。今年は「日本」が特別招待国として特集されたのです。自身もアーティストとして参加した鷹野さんが、現地で竹内万里子さんの熱い思いを聞きました。

出演者プロフィール

竹内万里子氏

鷹 野 : まずは無事の開催、おめでとうございます! その華奢な体であれだけ大きなイベントを背負ったなんて、ほんとに凄い。さぞ大変だったろうと思います。

鷹野隆大氏 撮影:竹内万里子

竹 内 : パリフォトでは毎日膨大な人に会って、ずうっとしゃべり続けて、一日の濃さが尋常じゃない。寝てる間も熟睡できなくて、夢の中でずーっと慣れない外国語をしゃべってる。

鷹 野 : 大丈夫? 会場の熱気を見てると、そうなるのがよく分かるけど。

竹 内 : 気になる問題があってそれをなんとか回避しようともがいてる…そんな夢ばかり(笑)。

鷹 野 : 何かトラブルは起きてるの?

竹 内 : まあ致命的なトラブルはないけど…作品が届かなくてブースが空っぽとかいうことはなかったから(笑)、まずは一安心。

鷹 野 : よかった。でも、始まるまではすごい心配だった?


パリフォトの入り口

竹 内 : それはそう。展覧会とかこういうオーガナイズの仕事ってあらゆる状況を想定して動くでしょ。今回のパリフォトには日本の14のギャラリーと5つの出版社が出ていて(全体では86のギャラリーと21の出版社)、もちろん彼らはプロだから基本的なことはお任せするけど、日本特集全体の調整や細かい交渉は私の仕事。そもそも12回の歴史のなかでパリフォトがアジアの国を特集するのは初めてで、その最初が日本。当然フランスと日本では仕事の進め方や考え方も違うし、その意味でパリフォトにとっても初めての経験が多かった。だから開催前日に日本の関係者と作品がすべてそろったのを確認したとき、「ああ、無事に船が着いた」と思ってほっとした。まずはこの船をきちんと岸に着かせること、それが私の一番の役目だと思ってたから。今だから言えるけど、一時は船が沈むんじゃないかというような状況もあったからね。

鷹 野 : そんなに! それにしても、お客さんの数が半端じゃないよね。

混雑したチケット売り場

竹 内 : でしょ。パリフォトはね、一度来ないとね。どんなに口で説明しても日本で信じてもらえない。

鷹 野 : ほんとにそう。僕もこんなだとは想像もしなかった。

竹 内 : 「たかが写真、されど写真」とはいうけど、「たかが写真」を観るのにものすごい人が来る。4日で4万人前後。開場を前に朝から何十メートルも列ができる。

鷹 野 : 凄いよね。毎回こうなの?

竹 内 : うん。この急激な不景気にもかかわらず、今年もお客さんの入りは良いって。去年よりも増えてると思う。

鷹 野 : うれしいな。

混雑したチケット売り場

竹 内 : でもね、今回日本が置かれた状況はある意味で例外的でもあるの。いままでイタリアやスペイン、北欧などが特集されてきたけど、これほど特別招待国の写真が会場全体で盛り上がることなんてなかった。今回、日本だけではなく欧米のギャラリーもこぞって日本の写真を見せているでしょ。それって今年日本を特集する充分な根拠があったってことを表しているともいえるわけ。会場全体で紹介されている日本写真家の数が130人以上っていうのは、パリフォト最高記録だよ。

鷹 野 : そんなに多かったのか‥‥

竹 内 : それはもちろん、わたしだけが頑張ったわけでも、パリフォトだけが頑張ったわけでもなくて、世界的な流れとして「日本写真」っていったら「じゃあやろう!」っていう空気がもう…。グッドタイミングだった。

鷹 野 : 機が熟してた‥‥

入り口に貼り出された看板

竹 内 : それにすごく助けられたと思う。たとえば欧米の流れで見ると、この夏にニューヨークの国際写真センター(ICP)で日本の写真とビデオの作家を紹介するグループ展が開催されている。同じ年にNYとパリで日本の写真を特集する展覧会や文化行事が催されてるっていうのは、ひとつの印だと思う。

鷹 野 : そんなに日本の写真が注目されていたとは。海外のこういうイベントに来たのは初めてだから、ちょっとわからなかった。ところで、竹内さんはいまニューヨークに住んでるからICPの展示も見てると思うんだけど、あっちの展示とパリフォトの違いは、何か感じる?

竹 内 : イベントの質が根本的に異なるかな。ICPはあくまでも展覧会。展覧会の良さはキュレーターの手腕がきちんと伝わること。どういう作家と作品を集めて、どういうメッセージを伝えるかっていう意思を、カタログや会場の構成を通して伝えられる。でも、パリフォトはアートフェアだから、基本的にはギャラリーのブース単位で作品が紹介される。そのぶん、写真を扱う人たちの熱意にじかに触れることもできるけど、膨大な写真がばらばらに紹介されるから、下手をするとウィンドーショッピングみたいに好き嫌いだけで観てしまうことも可能なわけ。

会場風景

鷹 野 : 確かに。やっぱり展覧会じゃないっていうのは、難しい部分もあるよね。今回、パリフォトの会場を2〜3周くらい見て歩いたんだけど、取り上げられてる作家にすごく偏りがあるし時代も偏ってる。実はパリフォトに来た一番の理由は、日本の写真の歴史とか特徴とか、ニオイみたいなものが、外国で見ることで分かるかなって期待したからなんだけど、個人的には難しかったな。時代も流れも関係なく世界中の写真がごちゃ混ぜに並んでるから、どうしても絵柄の好き嫌いが先行しちゃう。

竹 内 : 展覧会のようにある特定のメッセージや知識を全体で与えるということは、アートフェアの役割じゃないんだよね。

鷹 野 : そうだね。

会場風景

竹 内 : それでも、私がここのゲストキュレーターとして招かれた以上やりたかったのは、たとえアートフェアであっても、日本の写真をよりよく理解するための手がかりを少しでも多く提供するってこと。だからカタログに文章を書いたり、シンポジウムをやるだけではなくて、これは今まで誰もパリフォトではやらなかったことなんだけど、会場の中に大きな年表の壁を立てた。日本の写真史を中心にして、世界の写真史、テクノロジー、文化・芸術、社会それぞれの歩みをきちんと照らし合わせようと思ったのね。会場全体にばらばらに紹介されている日本写真が実際どのような背景から生まれてきたのか、それを少しでも知ってほしかった。

鷹 野 : うん。

竹 内 : 嬉しいなと思うのは、あの年表はいわば手製なわけだけど、パリの事務局に「これのコピーが欲しい」っていう問い合せがたくさん来て。

鷹 野 : 俺も欲しい(笑)。

竹 内 : どうも(笑)。作った方としてはとっても嬉しい。確かにそういう年表ってありそうでなかったから。日本語ではあっても英語版はないし、英語であるものといえば欧米が中心だったりする。もっと日本と欧米の写真史をフェアに扱っていくことが必要だと思うし。

会場風景

鷹 野 : うん。

竹 内 : だからそれはひとつ、嬉しかったな。

鷹 野 : ちなみに年表のコピーはあるの?

竹 内 : まだないの。まさかそんなリクエストが来るとは思っていなかったから。

鷹 野 : じゃあ、とりあえずデジカメか何かで撮影しておかないとね。

竹 内 : それ、やってる人いた(笑)。そうやって何かが始まればいいね。

鷹 野 : そうだね。

ツァイト・フォト・サロンのブース

竹 内 : でも何度もいうけど、基本的にパリフォトはアートフェアなの。展覧会のように教育的に系統立てて何かを効率的に把握させるっていうのは難しい。私としてはカタログにテキスト書いたり年表を会場に用意したり、レクチャーもやってるけど…。そういう意味では、展覧会のときとは別のテンションで見る側も見ていかないと。自分なりの価値基準をきちんともっていないと、あっという間に途方に暮れちゃう。その意味で、アートフェアっていうのは見る側にとっても見せる側にとっても過酷な場所だなぁっていつも思う。

鷹 野 : なるほどね。あと、今回やってみて日本の写真について新たな発見とかは?

竹 内 : うーん、ちょっとズレちゃうかもしれないけど、今回とにかく自分がやりたかったのは、ただクオリティの高い日本の写真を数多く見せることだけでもなかったし、「これが日本写真ですよ」と納得してもらうことでもなかった。そこにある種のコンフュージョン、混乱を差し込めればいい、そんなふうにも思っていた。

鷹 野 : というと?

竹 内 : 「日本写真」という言葉が持っているある種の単一的なイメージをどう覆せるか、というところかな。とにかく私にとって今回重要だったのは「人」。「モノ」だけじゃない。確かに日本の写真は世界でずいぶん注目を浴びていて、すでに作品や写真集が以前よりはるかに流通するようになった。今回のパリフォトがその流れをさらに促進させることは明らかなんだけど、なんかそういう流れ、その状況に腑に落ちないものがあって。

鷹 野 : んん?

竹 内 : このところ特に、欧米のキュレーターや研究者が頻繁に日本にやってきて、日本写真をものすごく真剣にリサーチをしてる。それ自体はすっごくありがたいことだとは思うんだけど、でもそこには何かが足りないと思うの。それは多分、自分たちの側に問題があって、日本で写真を扱ってる私たち関係者のほとんどが、そういう状況をただ受け身で待ってるだけのような現状があるでしょ。そうじゃなくて、写真家も含めて自分たちがきちんと他の場所へ出て行って、自分の顔と自分の声をさらして言うべきことを言う、フェイストゥフェイスで対話をする、そうやって何かを手渡すっていうことが、仕事以前に人間としてすごく重要だと思うのね。

鷹 野 : うん。

竹 内 : 欧米のほうが日本より優れているとかつまらないことを言いたいんじゃなくてね。ただ、もっと対等にやろうよってこと。だから日本から人を連れて来たかったの。ギャラリストだけじゃなく写真集を作る出版社の人たちにもパリに来てもらいたかった。もちろん、私たちは一人一人違う考え方を持っていろんな情熱を持ってる。言葉の壁もあったりして、現実はそんな単純じゃない。でも、直接出会うということが、将来に向けて重要な種になる。ここでまいた種を今後どうやって育てていくかは、各自に委ねられるわけだけどね。最初に言った、パリでみんなの顔を見て「私の役目はほとんど果たしたな」って思ったというのは、そういう意味だったの。このままだといつまでたっても「発見」される、都合のよい、エキゾチックな何かになっちゃうから…。だから昨日おとといとレクチャーを2種類やったときも、結論付けてきれいにまとめることを避けたんです。むしろ私たちの持ってる情熱をさらけだしちゃった。方法が違っても伝わるんだよね。わかりにくくてもその場で顔を向き合わせて「国の問題じゃないんだ。個人の問題なんだ」っていうことを感じてもらうのが私の仕事のひとつなわけだから。会場に集まった作品のクオリティには自信があるから、そこには問題はないわけ。だけど、作品をただ見せるだけじゃなくてもっと個人レベルで動けば、いろんなことが可能だと思う。少しでもそのきっかけにパリフォトがなれば…。

鷹 野 : いいよね。

「テュルリー庭園/パリ、フランス/2008.11.13」
©鷹野隆大/Takano, Ryudai

竹 内 : 正直言うと、ヨーロッパにはまだ日本と中国の違いもわからない人たちなんてたくさんいるのね。日本は経済大国になったけど、まだ多くのフランスの人にとっては「エキゾチックジャパン」のまま。もちろんその文脈が今回の日本特集の背景にあることは否定できない事実だけど、私たちはそこに乗りながら、同時に壊していく必要があると思うの。そこに破綻みたいなものをあえて作り出さないとやっていけないと。

鷹 野 : このままじゃ、単なる「夢の国」という扱いからがずっと抜け出せない‥‥

竹 内 : 21世紀にこんなこと言うのもおかしなことなんだけど、でも人々が頭でわかっているふりをしても、やっぱり言葉の問題も距離の問題もあって、対等なんていう状況とは実際程遠いわけ。インターネット社会っていったって、たいていの人々の世界観はグローバルでもなんでもない。その問題の根深さは、仕事をすればするほど痛感してきた。そういう今までの状況を少しでも変えるきっかけになればいいなぁって。ただ「発見」されるのを待つばかりじゃ、悔しくて。

「ヴァンドーム広場/パリ、フランス/2008.11.13」
©鷹野隆大/Takano, Ryudai

鷹 野 : 深いなあ。外の世界の人間と激しく体をぶつけ合ったから出て来る言葉だね。なんか今、サッカーのタフな試合を見た後のような気がしてる。今回、僕自身はこの地で十分な成果を得られなかったけれど、お話しを聞いていて、いつかリベンジを果たさなければという気持ちになりました。
本日は展示中のお忙しい中、ありがとうございました。


(2008年11月15日 パリ・ルーブル美術館近くのカフェにて  執筆・構成:幕内政治)
※注/撮影者名のないものは、すべて鷹野撮影


 

ゲスト紹介

竹内万里子(タケウチ マリコ)
写真評論家

1972年、東京生まれ。 早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了(芸術学)。
「アサヒカメラ」「スタジオボイス」など各メディアで写真批評活動を展開。そのほか展覧会カタログ、写真集、事典などに多数寄稿し、国内外の写真祭でレビューアーや講師を務める。08年、フルブライト奨学金を受けて渡米。「Paris Photo 2008」において日本特集のゲストキュレーターを務めた。現在、早稲田大学非常勤講師、東京国立近代美術館客員研究員。

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鷹野隆大プロフィール

鷹野 隆大(タカノ リュウダイ)
写真家

1963年福井市生まれ、1987年早稲田大学 政治経済学部卒。1994年より作品を発表。2006年 写真集『IN MY ROOM』(2005年 蒼 穹舎刊)にて第31回 木村伊兵衛写真賞受賞。
セクシュアリティをテーマに他者との関係性を問い直す作品を発表している。
個展 2000年「ヨコたわるラフ」(ツァイト・フォト・サロン,東京)、2005年「Common Sense」(同)、2006年「In My Room」(ナディフ,東京)、2006年「男の乗り方」(ツァイト・フォト・サロン,東京)、2007年「毎日写真」(ギャラリーアットラムフロム,東京)など。グループ展に2001年 「手探りのキッス 日本の現代写真」(東京都写真美術館 他)、2004年「日常の変貌」(群馬県立近代美術館)ほか海外でも展覧会多数。
パブリック・コレクションとして、東京都写真美術館と国際交流基金、川崎市市民ミュージアム。
作品集として、『IN MY ROOM』(2005年 蒼穹舎)、”カ・ラ・マ・ル”シリーズによる『鷹野隆大 1993-1996』(2006年蒼穹舎)。
近年『新潮』(2006 6月号 pp.190−191)や『週刊朝日』(2006年 5/19号 pp.5-15)にエッセイが掲載されるなど文筆活動も行い、評価を得ている。2007年には「月刊たかのカメラ」と題し、エッセイを一年間連載した。
2008年度の展覧会として、個展“ぱらぱら” (6/6-7/3ツァイト・フォト・サロン,東京)、グループ展 “液晶絵画 スティル|モーション”(4/29〜6/15 国立国際美術館, 大阪、8/23〜10/13 東京都写真美術館, 東京)、 “Backlight 2008 Tickle Attack” (9月〜11月 Photographic Centre Nykyaik, タンペレ, フィンランド、他ヨーロッパ各都市)他。

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今後のスケジュール ※あくまで予定ですので、都合により変更する場合もございます。ご了承ください。

タカの部屋 第4回 トーク参加予約受付中 第4回 「日本近代美術のご機嫌」 会田誠x鷹野隆大

2009年1月24日(土)開催予定!                                      

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企画協力:YUMIKO CHIBA ASSOCIATES / ZEIT-FOTO SALON / BOOK246