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タカの部屋 人気写真家鷹野隆大が各界の著名人をゲストに迎えてインタビュー

第3回 山本想太郎×鷹野隆大 「サッカーはアートを救えるか」

鷹野隆大がホストを務め、多彩なゲストを迎えてさまざまな話題を繰り広げる「タカの部屋」。その第3回は、建築家の山本想太郎氏を迎え、2008年秋に開催されました。
テーマは大胆不敵にも「サッカーはアートを救えるか」。サッカーを「する人」vs.「観る人」。そして、「写真家」vs.「建築家」。
2006年開催の越後妻有アートトリエンナーレではさまざまなアーティストとコラボレーションした空間を展開、発表するなど、アートと積極的に関わり、そして自らもアマチュアのサッカーチームに所属する山本氏と、元々野球少年だったのが、海外でのサバイバル術としてサッカーに興味を持ったことを契機に見始め、そこからさまざまなカルチャーショックを受けたという鷹野によるトークは、互いの関係性が複雑な構図を創り出し、ダイナミックに展開されました。

出演者プロフィール
鷹野隆大氏

山 本 : 今回のテーマはサッカーが「アート」を救う、なんですよね。写真家の鷹野さんに伺いたいんですけど、なんで写真って言わないんですか?

鷹 野 : 「写真」と限定してしまうと、狭い感じがするじゃないですか。

山 本 : でも、より大きなものを救おうとしてる(笑)。

鷹 野 : その通り!と言いたいところですが、ほんとは美術全般にしておけば何とか関連づけられるんじゃないかと。

山 本 : つまり、何となく救った気になればいいわけですね、それだと確かに気が楽です(笑)。で、まず鷹野さんに伺いたいんですけど、鷹野さんはサッカーを実際にプレーされたことはありますか?

山本想太郎氏

鷹 野 : 草サッカーを一度くらい。まあ、やったとは言えませんね(笑)。

山 本 : プレーしたことがないサッカーにそこまで深く入り込めていることは大変興味深いです。観ているだけで、サッカーの魅力を実感できている、そういうことですよね。

鷹 野 : ええ。

山 本 : それはサッカーが持っている要素、アートと結びつけて言うならば、「表現によるコミュニケーション能力」がものすごいという証明でもありますよね。

鷹 野 : そうですね。

山 本 : 鷹野さんは実際プレーされたことないので、感じとして掴みにくいかもしれないんですが、サッカーの試合をテレビで観ていて「なんでこの選手にパスがいかないんだろう、フリーなのに」って思うことってありませんか?


<56fcの試合> 山本氏の所属するサーカーチーム「56(ゴロ)fc」の試合風景。同チームは建築家を中心に組織されているサッカー大会「Acup」に毎年参加している。

鷹 野 : ありますねえ。なぜそっちに?もったいない!って。

山 本 : それはですね、パスを出さないほうが悪いんではなくて、受けるほうが悪いんです。実際にプレーしていて、きょうは自分にパスが来ないな、何でみんな俺にパスをくれないんだろう、と思うことがあるんです。でも、あれはみんなと身体でコミュニケーションができていない状態なんです。

鷹 野 : と言いますと?

山 本 : パスを受ける側は「自分はこれからこういうふうに動くから、こっちにパス出してくれ」ということを伝えなければいけないんです、言葉で打合せする時間はありませんから、身体で。そういう動きが眼の端に入ると、優れたサッカー選手はそっちにパス出しちゃうんです。

鷹 野 : なるほど。

山 本 : つまりそれは、自分と相手の頭の中がシンクロした状態になるわけですね。さらに言えば、ある予感のようなものをフィールドにいる10人で共有している状態なんです。でも、そのコミュニケーションを怠った瞬間はほんとにパスがこない。「これからこういうことがフィールドで起こるな」っていう“予感”が身体の外に現れていくと、何となくプレーは繋がっていくんですよ。早い話、自分のプレーに対してある他者性を持って見ているような感じですね。その感じは、実は写真を撮る行為にも通じると思うんです。

<小出の家>(2006年) アート:井出創太郎+高浜利也
設計:プロスペクター(山本想太郎設計アトリエ)

2006新潟県の里山を舞台に3年に1度開催される世界最大の国際芸術祭、 越後妻有アートトリエンナーレ2006の中心を担った「空家プロジェクト」の作品のひとつ。単なるイベントにとどまらない地域活性化の新しい手法として、アーチストと建築家が協力し、アートによる空家の再生が行われた。

鷹 野 : すごい話ですね。10人の脳がシンクロしている図が、いま頭に浮かびました(笑)。でも、写真とのつながりがもうちょっと‥‥

山 本 : 以前、写真の技術を学びたいと真剣に思った時期があって、というのはアートの表現分野の中で、一番シンパシーを感じるのが写真だったんです。

鷹 野 :うれしい話ですね。

山 本 : それで、写真家に会うたびに「いい写真ってどうやったら撮れるんですか」って聞いてまわってたんです。たまたまその頃、あの有名な写真家の森山大道さんとゴールデン街で一緒に呑む機会がありまして‥‥

鷹 野 : それは凄い!

山 本 : そうです(笑)、そのとき森山さんにも同じことを聞いたら、「それはものを見たときに感動する力だ」とおっしゃったんですね。僕はものすごくがっかりして。だって「ものを見たときに感動して、それを撮ったらつまらない写真になっているから困っているんじゃないか!」って思いましたから。

鷹 野 : はは(笑)。でも、森山さんの言ってること、分かる気がするなあ。

山 本 : だから、それが「いい写真」を撮るコツだったら、なんで僕は撮れないんだろうって。

鷹 野 : そうですねえ‥‥、えーと、ちょっとアプローチを変えましょう(笑)。まず、写真を撮るには必ず被写体が要ります。“念写”するわけにはいきませんから。だから写真を撮るということは「被写体を掴む」行為とも言えるわけです。で、その掴み方というか、掴む握力の差が写真の質を決定しているんじゃないかと思うんです。誰でも訓練すればある程度は上手に撮れるようになる。でもそれだけでは深さは生まれない。「いい写真」を撮るためには「強く掴む」ことが必要で、そのためには「強く、あるいは深く感動しなければならない」というのが、森山さんの言っていたことじゃないかと思うんです。

山 本 : 今「掴み方」と言いましたけど、まさにそこの部分が先ほど言った「他者性を持って見る」というところに結びついていると思うんです。掴んだ結果が写真になるわけじゃないですか。で、その写真を他の人が観るわけですよ。そこであるコミュニケーションが生まれるわけですよね。

<足湯プロジェクト”Contact”>(2006年) アート:プロスペクター
©DAICI ANO

越後妻有アートトリエンナーレ2006における、プロスペクター(今村創平+南泰裕+山本想太郎)のアート作品。 空家プロジェクトのプロセスで不要になった民家の建具を用いて、足湯のための空間が生み出された。風景やアート作品を見るだけでなく、 素足で大地とつながる感覚を鑑賞者に与えることが意図された。

鷹 野 : そうですね。

山 本 : で、掴もうという感情の裏には、それをやがては表現に結びつけるという気持ちがあると思うんですよ。むしろ、それがあることによって写真家は掴む力を得ているという気がするんです。だから、鑑賞者としての目線と表現者としての目線、その両方を写真家は持っていないといけないと思うんです。最初に風景を見たときに、我々がする感動には、表現者としての目線はないわけです。結局僕は鑑賞者としての目線が強いんでしょうね。その目線の差が、写真が面白いかどうかを決めているんじゃないかと。

鷹 野 : なるほど。確かにそうですね。

山 本 : で、僕はその「表現者でありながら観察をしなきゃいけない」ことにシンパシーを感じるんですよ。ここらあたりからアートを救う方向に話を持っていかなきゃいけないんですが(笑)、最近、アートの世界に関わるようになって、現代アートの展覧会もかなり行かせていただくようになったんです。若手アーティストの方がいっぱい展示されているような展覧会を観に行って最近思うのは、なんか「白っぽいな」っていう気がしてまして。
白っぽいっていうのはどういうことかと言いますと、まあ、「汚くない」んですよ。

鷹 野 : 言われてみれば、そうかも‥‥

山 本 : 何かしら可愛らしかったり奇麗であったり、そういう方へ向かう傾向が、現代アートの中で結構あると思う。なんでそうなっちゃってるのかなって。「かわいい」ということや「美しい」っていう感覚は、すでにそれなりに確立されている共有感覚ですよね。その社会的に共通でみんながプラスに思える感覚をコミュニケーションに使ってしまうと、表現行為の半分は、自分のオリジナルじゃなくなっちゃう。つまり、他者とコミュニケートするところで、今のアーティストたちって「らくしちゃってるな」っていう気がするんですよ。

鷹 野 : 貴重な指摘ですね。

<妻有田中文男文庫>(2007年) アート:カン・アイラン
設計:山本想太郎設計アトリエ

空家プロジェクトを継承するものとして、新潟県十日町市につくられた地域文庫。元公民館を改修して、大工棟梁の田中文男氏から寄贈された蔵書と、アーチストのカン・アイラン氏による光る本のアート「Lighting Book」を収蔵している。アート・建築作品であると同時に、地域活性化の拠点となっていく施設でもある。新しいものと古いもの、アートと日常の同居する空間設計となっている。

山 本 : 僕みたいな、ホントにアートの端っこにいる人間が指摘していいのかなって気もするんですけど、そういう傾向を感じてます。でも、コミュニケーションしなければ表現に結びつかないっていう根本的な部分を空洞化させてしまっても、絵画や彫刻はそれなりに成立したように見えてしまう。しかし写真家や建築家はそこから逃れられませんからね。被写体であったり建築主であったり、コミュニケーションを取ることが必然なんです。そういう我々がやっている表現のモデルを他のアートのジャンルにも敷衍(ふえん)させていくことはできないかなって思ってるわけです。僕は越後妻有アートトリエンナーレ以降もアーティストとのコラボレーションを精力的にやっていきたいと思って仕掛けているところなんですけど、そういった中で、もちろん建築という表現にある欠点を痛感したりもします。建築は逆にコミュニケーションする部分だけでも成立しちゃうところもある、何も表現しないでできちゃうこともあるんですよね。だから、さまざまなクリエイションと絡むことでお互いの持ってる欠点、表現としての不確実性に刺激を与えることはできないかなっていうふうに最近思うんですよね。

鷹 野 : ひとりじゃ成立しないところが建築と写真の共通項である、と。

山 本 : 本来ならば表現すべて、そうであるはずなんですけどね。

鷹 野 : 確かに建築と写真は、施主さんであったり、被写体であったり、他者とコミュニケーションをとることが必要で、そういう点でサッカーと似てますね。

山 本 : それこそ世界モデルというか、サッカーフィールドこそ究極の批評空間ではないかと。そういう意味では、世界のなかにサッカーがあるんじゃなくて、サッカーの中に我々はいるんじゃないのかな、くらいの思い入れをサッカーに対して持ってるんです。

鷹 野 : すごいですね。

山 本 : それくらいの気持ちで、サッカーを見るときは見てますけどね。

鷹 野 : そ、そうなんだ。

山 本 : フィールドにいるとき「なんて我々は自由なんだ!」と(笑)。

鷹 野 : 僕はフィールドに立ったことないんでわかりませんが、夢では時々、日本代表としてピッチに立ってます(笑)。

山 本 : 夢で見るってことは、知らず知らずのうちに、中にいるんですよ。サッカーの中に。

鷹 野 : は、はあ。まあ、その、他者と関係を持つことから逃げてはいけない‥‥

山 本 : いい意味でも悪い意味でも、オタク文化っていうそういうところに行きがちですよね。

鷹 野 : というと?

山 本 : オタク文化の中では、さまざまなことがステレオタイプ化しているというか、

安易なコミュニケーションの仕方をしているんですよ。そこの部分を変えていくためにね、ぜひサッカーをやってほしい。みんなやるように(笑)。

鷹 野 : たしかに、サッカーのコミュニケーションって、実に高度ですよね。コンマ何秒で、誰とどんなコミュニケーションを取るか判断しなきゃならないわけです。やったことないですけど、そういうことを頭の中でイメージしながら観てるわけで、鋭いコンタクトっていうか、ハイスピードで濃密な他者との関係性を求めていくことに、我々の表現との類似性を感じます。写真も瞬間的に鷲掴みする力が当然求められるんで、短い間に判断してシャッターを押す、それとサッカーのパスを出す瞬間は多分重なると思うし、建築家も多分似たような瞬間があると思うんです。

山 本 : その瞬間のために建築やってるようなところはありますよね。写真もそうでしょうけど、サッカーをプレーしている時にもそんな瞬間があるんですよ。「世界が見える!」みたいな。

鷹 野 : おおぉ!

山 本 : それぞれのスポーツでももちろんあると思うんですけど、なんかフィールドが全部見えて、ゆっくり時間が流れているような瞬間が必ずあります。

鷹 野 : すばらしいですね、それは僕にはない。

山 本 : いや、それが、比較的伝わりやすいスポーツだと思うんですね、サッカーは。

<56fcチーム集合写真> 所属組織も職種もバラバラの寄せ集めチームだが、その分、結束は固い。

鷹 野 : なるほど、話を「アートを救う」方向へ向けると、タコ壷に引きこもってコミュニケーションを取らない、っていう日本人の閉鎖的な体質を転換することが必要で、そのためにサッカーが存在している、そういう結論でいいですか。

山 本 : 多分みんなサッカーをやりたくなってきたと思うんですけどね(笑)。


(2008年11月29日 南青山Book246にて/構成:幕内政治・鷹野隆大 執筆:幕内政治)

エルサレム(2005年)
© 鷹野隆大/Takano, Ryudai
Courtesy:Yumiko Chiba Associates/Zeit Foto Salon

トークショー休憩時間に・・・

休憩時間に歓談中。
左が鷹野さん、右が山本さんです。

BOOK246の細谷さん。いつも場所をご提供いただき、ありがとうございます。

ゲスト紹介

山本想太郎(ヤマモト ソウタロウ)
建築家

1966年東京生まれ。
1991年、早稲田大学理工学研究科(建築専攻)修士課程修了。
1991〜2003年、坂倉建築研究所勤務。2003年、建築家ユニット、プロスペクターを共同設立。
2004年、山本想太郎設計アトリエ設立。現在、東洋大学非常勤講師、明治大学兼任講師、日本建築学会情報設計委員会委員、『DETAIL JAPAN』誌技術翻訳総監修。主な建築作品に『国分寺の家』、『汐留プラザビル』、『越後妻有アートトリエンナーレ空家プロジェクト』、『南洋堂ルーフラウンジ』(プロスペクター)、『妻有田中文男文庫』など。主な著作に『テクトニック・カルチャー』(共訳、TOTO出版)、『現代住居コンセプション』(共編著、INAX出版)、『Detail Japan TALK』(リード・ビジネス・インフォメーション)など。『新建築』誌などに連載執筆中。
URL:http://park16.wakwak.com/~prospector/

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鷹野隆大プロフィール

鷹野 隆大(タカノ リュウダイ)
写真家

1963年福井市生まれ、1987年早稲田大学 政治経済学部卒。
1994年より作品を発表。2006年 写真集『IN MY ROOM』(2005年 蒼穹舎)にて第31回
木村伊兵衛写真賞受賞。セクシュアリティをテーマにした作品に加え、最近は都市にも興味を向けている。 個展 2000年「ヨコたわるラフ」(ツァイト・フォト・サロン,東京)、2006年「In My Room」(ナディフ,東京)、2006年「男の乗り方」(ツァイト・フォト・サロン,東京)など。グループ展に2001年 「手探りのキッス 日本の現代写真」(東京都写真美術館 他)、2004年「日常の変貌」(群馬県立近代美術館)、2008年「STILL |MOTION 液晶絵画」(東京都写真美術館 他)、「PARIS PHOTO 2008」(カルーセル・ドゥ・ルーブル, パリ)ほか海外でも展覧会多数。パブリック・コレクションとして、東京都写真美術館、国際交流基金、川崎市市民ミュージアム。上海美術館。
作品集として、『IN MY ROOM』(2005 蒼穹舎)、『鷹野隆大 1993-1996』(2006蒼穹舎)。

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バックナンバー



2008年5月22日開催

第1回 「反権力」 港千尋×鷹野隆大

鷹野隆大がホストを務め毎回多彩なゲストを迎えて写真について存分に語る「タカの部屋」。記念すべき第1回は写真家であり、同時に「記憶」「映像」に関する多数の批評書を著している港千尋氏とともにお送りします。テーマは「ブラジル」と「反権力」? 写真とブラジルと権力はどう結びつくのか!?

第1回インタビューはこちら >>



2008年8月9日開催

第2回 「いい男論」 笠原美智子x鷹野隆大

東京都写真美術館事業企画課長、明治学院大学非常勤講師として活躍されている、笠原美智子(カサハラ ミチコ)氏。彼女は、1957年、長野県生まれ。明治学院大学社会学部卒、シカゴ・コロンビア大学修士課程修了(写真専攻)され、帰国後、東京都写真美術館準備室に入室。13年間の勤務の後、現在は東京都現代美術館に学芸員として勤務されています。そんな彼女と鷹野隆大が「いい男」をテーマに語ります。

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番外編 竹内万里子×鷹野隆大 「パリフォト」

パリでおこなわれた番外編となる今回のトークのゲストは、写真評論家の竹内万里子さんです。 竹内さんは今年(2008)、欧州最大の写真アートフェア「パリフォト」でゲストキュレーターを務めました。毎回、パリのルーブル美術館の地下を使って開かれる同展。今年は「日本」が特別招待国として特集されたのです。自身もアーティストとして参加した鷹野さんが、現地で竹内万里子さんの熱い思いを聞きました。

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今後のスケジュール ※あくまで予定ですので、都合により変更する場合もございます。ご了承ください。

タカの部屋 第4回 トーク参加予約受付中 第4回 「日本近代美術のご機嫌」 会田誠x鷹野隆大

2009年1月24日(土)開催予定!                                      

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企画協力:YUMIKO CHIBA ASSOCIATES / ZEIT-FOTO SALON / BOOK246