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『美術手帖』の連載でお馴染みの谷川渥、『芸術をめぐる言葉U』出版記念!タグボート独占インタビュー

谷川 渥(たにがわ あつし)
1948年生まれ。1978年東京大学大学院博士課程修了。現在、國學院大學文学部教授。美学専攻。主な著作『形象と時間』『美学の逆説』『鏡と皮膚』『イコノクリティック』『廃墟の美学』など多数。

『芸術をめぐる言葉U』
美術出版社発行の月刊誌「美術手帖」に13年に渡り連載されている人気コラム。古代から現代まで、芸術について語られた言葉と、谷川さんのわかりやすく学術的な解説が好評を博し、今回が第二弾の発刊となる。
2006年3月30日  美術出版社発行
定価 2,940円 (税込)

パーティーの合間には舞踏のパフォーマンスも繰り広げられ大盛況。写真は、舞踏家 和栗由起夫氏と谷川さん。

2006年3月某日。青山のスタイリッシュなオープンカフェで、『美術手帖』(美術出版社)の連載でお馴染みの美学者 谷川渥さんの『芸術をめぐる言葉U』の出版記念パーティーが開かれました。1年間イタリアに留学される谷川さんの歓送会も兼ねたパーティーは、出版関係者の方から、ご友人、同僚の方など多くの出席者で賑わい、途中、舞踏家の和栗由起夫氏らの舞踏パフォーマンスもはさみ、大変な盛り上がりを見せていました。
谷川さんとタグボートアートディレクター広本とは、大学時代の先輩後輩の関係にもあたり、多くの出席者のお祝いの言葉にもみくちゃにされる中、お時間を頂きインタビューを敢行! 今回の著書と、芸術、そして谷川さんのルーツについても熱く語っていただきました。
−−『芸術をめぐる言葉T』のあとがきに、ご自身のライフワークでいらっしゃると書かれていましたが、どのようないきさつでスタートされたのですか?
当時の『美術手帖』編集長から連載の依頼があり、本当は100回で終了のはずが、80回を過ぎたところで1冊の本になり、151回で2冊目となりました。もう13年も続けているからライフワークですね。
−−各々の言葉は、どのように選択されているのですか? ノートなどに書き溜めていらっしゃるのですか?
全て記憶と直観で選んでいます。自分はあまりノートをとる人間ではないので、まったく書き溜めていません。ただいつも読書はしているので、「そういえばあいつがこんなことを言っていたな……」と、記憶を基に改めて文献を確認して原稿を書いています。
−−この度発行された『芸術をめぐる言葉U』の中で一番好きな言葉は何ですか?
本の帯にもなっている古代の俚諺(ことわざ)「芸術は長く、人生は短し」です。 もともとこの言葉は、古代ローマの後期ストア派の哲学者セネカが、ヒポクラテス(※1)の言葉として書物の中で引用していますが、「Art is long , life is short」という言葉の意味は、ロマン派的な誤解なんですね。
もともと「アート」の語源であるギリシャ語の「テクネー」は、「技術」を意味する言葉であって、本来のヒポクラテスの立場に立つならば、彼は医者だったので、本当は「医術を習得するのに人生は短すぎる」という意味になるんですよ。
−−谷川さんは大学時代、ベルクソン(※2)の研究をされていたと記憶していますが、ベルクソンの言葉の中で一番お好きな言葉はなんですか?
……やっぱり「生は不断の創造である」ですね。ベルクソンはユダヤ人ということもあり、過去へさかのぼらない。常に前へ前へ進んでいくという姿がいい。
−−この度、1年間ローマへ留学されると伺っていますが、どのような研究をされるのですか?
アカデミー・ド・フランス(パリ王立アカデミーのローマ分校)が、当時のままの姿で現存し、今は大きな図書館になっていて、そこに所蔵される書物の研究とピラネージ(※3)の研究に行きます。
アカデミー・ド・フランスがあるヴィッラ メディチの前に、ピラネージは大きな銅版画屋を開いていて、ローマの廃墟の版画を沢山作って売っていたわけですね。
当時の芸術に対する思想は、ドイツ人であるヴィンケルマン(※4)の考え方が主流で、彼は、ローマの美術は「あんなもの芸術じゃない」と言ってしまうような人物でした。そんな人がローマ教皇お抱えの古物監督官だったんだから(笑)。
それに真っ向から対抗していたのがピラネージで、彼はローマの廃墟を描いた銅板画を自分の店でどんどんと売っていた。ピラネージの制作した銅版画は、後の新古典主義(※5)の美術の源泉ともなったんですよ。
−−谷川さんがアートを志した理由と、多くの著作のきっかけについてお聞かせ下さい。
はじめに精神病理学をやりたいと思って大学に入ったけれど、転部を考えるようになり、そこに「美学」というのがあって、これは面白そうだということで移ったのがきっかけです。
本を書くようになったのは、編集者からの依頼というのが大きいです。もともと絵も好きだったので、作家のアトリエにも頻繁に行くようになりました。
−−谷川さんが、廃墟に魅入られた理由というのは?
自分は滅び行くものが好き……デカダンス的なものが好きなんですよね。
谷川さん、どうもありがとうございました。
1年間の留学のご成功を、心よりお祈りしております。
(※1)ヒポクラテス[前460頃〜前375頃]
古典古代を通じて最も名高い医師。

(※2)アンリ・ベルクソン[1859〜1941]
フランスの大哲学者。直観と持続の概念にもとづく生の哲学で 一世を風靡。

(※3)ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ[1720〜1778]
18世紀イタリアの銅版画家。古代ローマの廃墟をモチーフに銅版画を制作。廃墟の美学を追求した芸術家。

(※4)ヨハン・ヨアヒム・ヴィンケルマン[1717〜1768]
ドイツの美術考古学者。ギリシア美術を賛美した著書、『ギリシア芸術模倣論』(1755)が主著。

(※5)新古典主義 18世紀後半以降、退廃的なロココ美術に反駁して広まった、古代ローマ・ギリシア美術へ回帰する運動のこと。ダヴィッド、アングルなどの作家が有名。


(参考文献)
谷川渥『芸術をめぐる言葉T』(美術出版社、2000年)
谷川渥『芸術をめぐる言葉U』(美術出版社、2006年)
谷川渥『廃墟の美学』(集英社新書、2003年)