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| ドイツ年である今年はジャーマン・アートの展覧会が数多く催されています。これに併せてタグボートでもドイツ作家の特集を行うことにいたしました。まず初めにご紹介するのは、今や現在のドイツを代表する写真家として欠かすことのできない存在、トーマス・ルフです。 |
1988年のイタリア、ベネチア・ビエンナーレでひときわ話題を集めた作家、それがトーマス・ルフでした。上半身を真正面から写したとんでもなく大きなポートレート写真。鑑賞者の背丈よりも高く、あのサイズの印画紙なんてあるはずがない! と周囲を戸惑わせたほど異彩を放っていました。それから瞬く間にルフの名前は世界的に知られることとなります。ミース・ファン・デル・ローエやヘルツォーク・デ・ムーロン(※プラダ青山店やドイツ・ワールドカップの競技場の設計を手がけた)の建築を撮った写真でも有名です。森美術館のオープニング記念展 「ハピネス」 のポスターを飾ったのもルフでした。今では世界を代表するアート・フォトグラファーの1人に数えられています。
1958年生まれのルフは、アンゼルム・キーファーやゲルハルト・リヒターなどを輩出したことで有名な名門アート・スクール、デュッセルドルフ美術アカデミーの出身。給水塔の写真で有名なベルント&ヒラ・ベッヒャー夫妻の元で写真を学びました。ベッヒャー夫妻の教え子には他に、トーマス・シュトルートやアンドレアス・グルスキーなどがいて、彼らは「ベッヒャー・シューラー(ベッヒャーの教え子、の意味)」と呼ばれています。ドイツ・アート写真の系譜をたどると、1920年代のアウグスト・ザンダー、60年代のベルント&ヒラ・ベッヒャー、80年代後半からのルフ、シュトルート、グルスキーら、そして2000年頃から登場したヴォルフガング・ティルマンス、ユルゲン・テラーといった現在の若手たちへとつながっていきます。
典型的ドイツ家庭の室内風景を撮った『インテリア』(1979-83)、そして『ポートレート』(1986-)といった初期のシリーズでは被写体をいかにクールに、そして正確に伝えるかに関心が注がれていました。ところが湾岸戦争の報道映像を見たことがきっかけで始めたという、赤外線スコープを使って撮った『夜』のシリーズ(1992-96)の頃から、ルフは写真に対する考え方をもう一歩前へと踏み出します。92年の『星』シリーズで、ヨーロッパの天文台が写した星空写真のネガを大型プリントに引き伸ばしたものを作品として発表したのを皮切りに、自分で撮る以外にレディーメイド(既製品)の写真も使い始めるようになります。1999年に始まるヌード・シリーズでは、インターネットのポルノサイトから収集した大量の画像データにデジタル加工を施し、オリジナルな作品に仕上げました。
「写真が持つ情報性に興味があるんだ」と、ルフは語っています。アンディー・ウォーホルがかつて60年代にキャンベルスープの缶のビジュアルをそのままキャンバスにシルクスクリーンで刷ったように、あれから約50年が経って、トーマス・ルフはインターネットに溢れて消費される画像、中でもその典型とも言うべきポルノの画像を借用して作品をつくり上げました。かつて写真の魅力といえば銀塩の質感と言われました。が、今や誰もが写真を撮り、大量にインターネットで画像が流れるようになったこのデジタル時代に、“ピクチャー”の持つ意味そのものが変わりつつあります。「写真=真を写す」と書きますが、もはや写っているものは真実そのものではない、すべての写真はマニピュレートされている。そうルフの写真は語りかけているかのようです。 |
2001-2003年に発表された新作『基層』シリーズ。これは、ネットからダウンロードした日本のアダルト・コミックの画像を限界まで加工することによってでき上がったイメージの作品です。もはやその原型を窺い知ることはできません。「これは写真なの?」。わかっているのはそれがルフが行き着いた、“ピクチャー”の現在地点だということです。同じデュッセルドルフアカデミーの先輩、ゲルハルト・リヒターはかつて「絵画は写真を超えられない」と言いました。20歳年下のルフがつくる写真は、まさに「映像時代の絵画」と言えるのかもしれません。それはとても不穏にして、同時に神々しい輝きを放っています。 -「ドイツ特集」第2回はゲオルグ・バゼリッツをお送りする予定です(10/17up)。 お楽しみに!- 〔本稿は現代のジャーマン・アート・シーンに詳しい、栃木県立美術館学芸員・山本和弘さんに監修いただいて構成しています。この秋、山本さんがキュレーションを手がけた展覧会が行われます。ルフの上出の作品のうち、*印の2点が本展に出品、また同じベッヒャー派のトーマス・シュトルートの作品も見ることができる貴重な展覧会です。〕 |
■タグボートで購入できるトーマス・ルフの作品はこちら |
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〔その他にこの秋開催されるジャーマン・アートの展覧会〕 ■ゲルハルト・リヒター:鏡の絵画展 2005年9月3日(土)-10月26日(水) 金沢21世紀美術館 http://www.kanazawa21.jp/richter/index.html 60年代から現在までのリヒターの作品を一望できる機会。終了後は千葉・川村記念美術館へ巡回。 ■ジグマー・ポルケ展〜不思議の国のアリス 2005年10月1日(土)-10月30日(日) 上野の森美術館 http://www.ueno-mori.org/special/sigmar_polke/index.html ゲルハルト・リヒターと並ぶドイツ絵画の巨匠、日本の美術館では初となる個展。 ■シュテファン・バルケンホール|木の彫刻とレリーフ 2005年10月15日(土)-12月25日(日) 東京オペラシティアートギャラリー http://www.operacity.jp/ag/ 1957年生まれ。動物や普通の人たちを題材にした木彫りの作品をつくる作家の日本初個展。 ■ドイツ写真の現在 -かわりゆく「現実」と向かいあうために- 2005年10月25日(火)-12月18日(日) 東京国立近代美術館 http://www.momat.go.jp/Honkan/German_Contemporary_Photography/index.html アンドレアス・グルスキー、ヴォルフガング・ティルマンス、ロレッタ・ラックスなどの新しい世代のドイツ写真家の作品が見られます。 |