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| 前回のトーマス・ルフに引き続いてお届けするジャーマン・アート特集第二弾。今回ご紹介するのは、ゲオルグ・バゼリッツです。20世紀を代表する画家の一人であり、この10月には日本で初となる個展も開催されます。ドイツ・イヤーの今年、この作家の作品が見られる貴重なチャンスです! |
これって上下が逆では? 誰もが最初にそう思うに違いありません。ゲルハルト・リヒターやジグマー・ポルケらと並んで現代ドイツを代表する画家の一人、ゲオルグ・バゼリッツはモチーフを逆さまに描く作風で知られています。どうして逆さまなのか? 奇想な思いつきと言ってしまえばそれまでですが、ただ一つ言えることは、「これは一体何?」と、ついついじっと見入ってしまうはずだということです。バゼリッツの一番の魅力、それはものの見方を“リセット”させてくれること。アーティストの問いかける声が絵の中から聞こえてきそうです。「あなたの目にしているものは何なのか?」
“見えているもの”の根源的な意味を問い直すバゼリッツの姿勢は、彼が置かれてきた社会状況と深く関係しています。1938年生まれのバゼリッツは、冷戦下の旧東ドイツで半生を過ごし、その後1957年に西側に亡命しました。戦争の悲惨さや思想の統制、そうしたものを身近に見てきた彼の作品には、社会のなかにあるさまざまな制度を“ひっくり返して”解き放つ、そんな意図が込められているのです。またそれは人間そのものをまっすぐ見つめ直そうとする気持ちの表れでもあります。なお実は現在活躍するドイツ絵画の巨匠には、リヒター、ポルケなど東ドイツからの亡命組が多く、彼らの作品からは共通した「強さ」のようなものが伝わってきます。
1995 年、ニューヨークのグッゲンハイム美術館で大規模なバゼリッツの回顧展が行われました。同館の副館長で絵画のキュレーターとして高い評価を得ているダイアン・ウェルドマン氏がこの展覧会を手がけたことは、彼が今の時代において重要な画家の一人であることを示しています。さらに2004年にはドイツのボンでも大掛かりな個展が開催されました。同じ年に絵画、彫刻、建築、音楽、演劇、映画の各分野で世界的に顕著な業績をあげた芸術家に授与される、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞しました。 建築家のオスカー・ニーマイヤー(ブラジルの首都ブラジリアの建築群やニューヨークの国連ビルを手がけた)、映画監督のアッバス・キアロスタミ(『オリーブの林をぬけて』、『友だちのうちはどこ?』などで知られる)と共に選ばれています。絵そのものが持つ、ストレートで強く、普遍性のあるメッセージに溢れた作品を描くバゼリッツは、現代美術史を語る上で欠かすことのできない作家です。
普遍的な強さを持つ一方で、「逆さま」にされたバゼリッツの絵は、どこか遊びゴコロも感じさせます。実際、バゼリッツの版画を家のリビングの壁にかけると何だか絵が宙に浮かんでいるかのようで、自由で楽しげな気分をもたらしてくれます。そういえば良い美術作品は無重力的だという説があります。たとえば教会の天井に描かれている中世の天使画などにしても、本当にそこに天使が空で舞っているかのような感覚をおぼえることでしょう。バゼリッツの絵に描かれた者たちは、重力はもちろん、社会のさまざまな制度からも解放され、自由になったその身体で、“ふわり”と浮かび上がって空中遊泳を楽しんでいるかのように見えてきませんか? |
-「ジャーマン・アート特集」は次回も続きます。第3回はゲルハルト・リヒターの登場です!(10/24up)。- 〔本稿は現代のジャーマン・アート・シーンに詳しい、栃木県立美術館学芸員・山本和弘さんに監修いただいて構成しています。山本さんがキュレーションを手がけた展覧会「ゲオルグ・バゼリッツ」展がもうすぐ始まります。80点を越すバゼリッツの作品が一度に見られる貴重な機会、ぜひ足をお運び下さい!〕 |
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