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タグボートセレクション ダミアン・ハースト
ダミアン・ハースト(DamienHirst)90年代イギリス・カルチャーの火付け役
「Lysergic Acid Diethylamide」 2000年
「Valium」 2000年
伝説をつくった男

90年代のイギリス・カルチャー・シーンを象徴するカリスマ的人物といえば、音楽ならオアシスのギャラガー兄弟かブラーのデーモン・アルバーンあたりの名が挙がりそうだ。アートの世界ではまちがいなく、ダミアン・ハーストだろう。

水槽のなかの鮫、切断されてホルマリン漬けになった羊、死んだ蝶がはりつけられたハート形のペインティング。ダミアン・ハーストは作品を発表するたび物議を醸してきた。しかし一方で誰もが彼の作品には良きにつけ悪しきにつけ病みつきにさせられる。そう、彼の有名なカラフルなドットのペインティングがすべて薬物の名前を冠しているように、その作品は一度手を染めてしまったら中毒になるドラッグのようだ。

ダミアン・ハーストがアートの舞台に登場したのは90年代の初頭である。今やハーストの出身校として名高いゴールドスミス・アートカレッジ。その在学中に彼がキュレーションしたグループショー「Freeze」は伝説となっている。そこからYBA(Young British Artists)と呼ばれる、若い芸術家たちが世界へ羽ばたいて行った。イギリスのアートシーンが急速に世代交代した分岐点はここである。

1997年にはYBAが勢揃いした展覧会「センセーション」がロンドン、ベルリン、ニューヨークで開催された。NYのブルックリン美術館に巡回したとき、牛の糞を使って描いたクリス・オフィーリの聖母子像がカソリックへの侮辱だとしてNY市長ジュリアーニの反感を買ったのは有名な話だ。美術館への援助を打ち切ると言い出し訴訟にまで発展した。もろもろ勃発したできごとの、もとを辿ればいつもダミアン・ハーストがそこにいた。


「The Acquired Inability to Escape, Divided. The Acquired Inability to Escape, Inverted and Divided. And other Works.」 1993年
40歳にしてオークションセールスTOP2

この陰鬱で頽廃的なロンドンのスターは、2004年には世界中の現役アーティストの中で、トップ2のオークションセールスを記録する作家に成長した。作品の価格はこの7年間で600%近いアップ。驚きの数字という他ない。その他現役で上位ランクされている作家は、1930年代生まれのジャスパー・ジョーンズ、ゲルハルト・リヒター、若くて1955年生まれ、50歳のジェフ・クーンズである。この中で、彼だけはまだ40歳になったばかり。


そして現在では50人のスタッフを雇い、4つのスタジオを運営する。さらについ最近、2005年の8月には廃墟化した古いマナー・ハウス(領主の館)を300万ポンド(6億円相当)で購入、自作および収集した美術品の展示ギャラリーにすることに決めたという。今は閉店してしまったが、「ファーマシー(薬局)」なるレストランも経営していた。2004年10月18日にロンドン・サザビーズでこの「ファーマシー」のセールが行われ、店内で飾られたり使われていたダミアン・ハーストのデザインによる品々が一斉に競売にかけられたが、総額で1,100万ポンド(約22億2,000万円)という破格の売り上げを記録した。これはこの年のオークション一大ニュースであったことは言うまでもない。


「まわってます」2002年
「The Magnificent Seven」 2000年
ダミアン・ハーストの主な作風

●「ドット・ペインティング」――ダミアン・ハーストの絵画のなかではもっとも有名なシリーズ。すべてLSD、バリウム(注:ここで言うバリウムは胃の検査をするときのそれではなく、精神安定剤の名前)など薬品の名前がタイトルにつけられている。

●「スピン・ペインティング」――ハーストが手がける絵画には主に2種類しかなく、もう一つがこのスピン・ペインティング。回転するキャンバスの上から絵の具を垂らしかけて生まれる、スピード感あふれるドローイング。

●「ホルマリン漬け」――1991年サーチ・ギャラリーでの個展で発表した、ガラスの水槽にホルマリン漬けの本物の人食い鮫を入れた作品が話題となりハーストの代名詞となった。93年のヴェニス・ビエンナーレでは、牛の親子を縦に真っ二つに切断してホルマリン漬けにした作品を発表した。体長4メートルのイタチザメを1尾まるごとホルマリン漬けにした「The Physical Impossibility of Death in the Mind of Someone Living」は1千万ユーロ(約13億3,000万円)で落札されている。

●「蝶、ハエを使ったシリーズ」――死んだ蝶の羽を大量に貼り付けて曼荼羅状にした作品、蝶の死骸を貼り付けた、ピンクのハートマークのかたちをしたキャンバスなど。

●「医療器具や医薬品を使ったシリーズ」――薬の瓶ばかりを収集して並べた陳列棚の作品、巨大な人体解剖模型を使った彫刻など。


こぼれ話

●海外のセレブのなかにはアートを買う人も数多くいるが、イギリスではベッカムが2003年に、愛するヴィクトリア夫人へその年の結婚プレゼントとして、ダミアン・ハーストの4600万円するペインティングを購入したのは有名な話。ホワイトキューブで発表されたばかりの、蝶の羽が貼り付けられた「Amazing Revelations」という新作である。

●サッカー好きで知られるハーストは、1998年フランス・ワールドカップのときにFAT LESというバンドを自ら組み、イングランド代表チームの応援歌をつくってCDもリリースした。ポニーキャニオンから発売されている「フジテレビ・サッカー・レジェンド」というオムニバスCDの4曲目に入っているのがそれらしいが、なぜフジテレビなのかといえば、明石家さんまのサッカー番組「天国と地獄」の挿入歌に使われていたからだという。

(文・構成=安田洋平)

ダミアン・ハースト
1965年6月7日、イギリス、ブリストル生まれ。1986-89年、ロンドンの名門アートスクール、ゴールドスミス・アートカレッジに学ぶ。在学中の88年、自らキュレーションを行いサウスイースト・ロンドンの廃墟となったビルで、在校生のグループ展「Freeze」を行う。今では伝説となっているこの展覧会は、イギリスで90年代にYBA(Young British Artists)と呼ばれる、若い世代の作家が出てくるきっかけになった。91年サーチ・ギャラリーでガラスの水槽にホルマリン漬けの本物の人食い鮫を入れた作品が波紋を呼ぶ。また93年のヴェニス・ビエンナーレでも、牛の親子を縦に真っ二つに切断してホルマリン漬けにした作品で物議を醸した。以来、一貫して「生と死」という作品の主題のもと、常に世間を驚かす発表を続けている。ガゴシアン・ギャラリー(ニューヨーク)、ホワイト・キューブ(ロンドン)他で個展開催。95年ターナー賞受賞作家。
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