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Interview 月夜に撮影された神秘的な作品迫る 古家万インタビュー
Interview 月夜に撮影された神秘的な作品迫る 古家万インタビュー
ウィスット・ポンニミットさん

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写真はじめたきっかけは?
一眼レフを持ったのが二十歳の時。
最初は写真をやろうというよりも、プラモデル(ジオラマや戦車、戦艦)を接写するために使いはじめたんです。当時は、ジョージ・ルーカスのILMという特撮工房で働きたいという夢があって、そのポートフォリオをつくるためにカメラを使いはじめたんです。
最初は特撮を用いた映画だとか、映像の方に興味があって、アメリカのアートスクールに留学したんですが、当時は今と違って映画をつくるのは、これほどハンディなものではなかったので、技術的にも人手の面でも大がかりですから。
環境的にも、ムービーよりスティルカメラの方が、自分の世界を表現していくのに適していると思って、作品を撮りはじめました。
とくに今回出品された『records』のシリーズ、月の軌跡が光の筋となっている作品など、古家さんの写真には、時間の流れというか、動的(ムービー的)な要素がありますね?
光の筋となっている作品など、古家さんの写真には、時間の流れというか、動的(ムービー的)な要素がありますね?
自分の中では、モーション・ピクチャーと言っているんですけど、動いていないものの中に動きを見る感覚を、日本人は共通して持っていると思うんです。アメリカの場合はモーション・ピクチャーと言えば、そのまま動的なイメージを写すけれど、日本の場合、動いていないものを見て、想像力で動いている世界を見るような様式美みたいなものがある。書や墨絵、浮世絵などは、日本のモーション・ピクチャーだと思うんです。動きのないところに動きを見る感覚、それを再現しています。
そういった伝統的なものの見方や想像する力は、現代では薄れていっているような気もしますが?
そうですね。 でも日本の文化には、想像力で補う楽しみ方ってやはりあると思うんですよ。 能、や落語などもそうですが、演じ手がいて(表現があって)、それと同時に見る側が想像力で半分補って楽しむような、送り手と受け手がいてはじめて成立する表現がある。向うの学校で作品を見せた時、周りの人から「フラット」だと言われたんですね。
最初は何を言われてるのか理解できなくて。要するに光と影のコントラストをもっとつけろと言うんです。 僕としては、絵としてはもう完成していて、そこから想像して楽しめるだろうと思っていたものが、海外の方からはフラットだと言われた、それが西洋と日本の、ものの見方の違いに気づいた最初ですね。
明治以降日本人としてのアイデンティティや文化を蔑ろにして、そのまま現在まで来てしまった部分があるから、文化的なよさを分かった上で、もう一皮剥いて未来に繋げて行けるといいかなって思います。
『records』の中のヨセミテ公園を写した連作について説明していただけますか?
ヨセミテといえばアンセル・アダムスが有名ですが、あの頃の写真家も日本からの絵的な構成要素を研究していて、恐れ多いんですけど、彼らの視点と本家の日本的なものの見方で撮影したものと比較してみようと思って。僕がモーション・ピクチャーで撮った同じ風景を横に並べて、ものの見方や考え方の違い、写真、美術の歴史的背景を考えていただければいいかなと。
マイケル・ケンナも、日本人が見て「ああ、いいな」と思うようなツボを押さえた写真を多く撮っていますが、海外の方があそこまで研究していて、それを日本人が「いいな」と思っていることが、悔しいじゃないですか(笑)。
ヨセミテも夜に撮影したものなんですか?
ええ、『records』のシリーズは、すべて月夜に撮影しています。撮影時は真っ暗だから、肉眼では実際ほとんど見えないんですよ。手前の木が確認できるくらいで、天候にもよりますが、山とかは全く見えていない。あることは知ってるんですけど、フレーム的にどこに何があるというのをイメージして撮影してます。不思議なことに、天気が悪い時ほど明るく写るものなんですよ。
霧や雨が降っていたりすると、空気中で光が水蒸気に当たって反射されるんです。実際には露光している長い時間の間に、木とかが微妙に動いているわけです。だからモーション・ピクチャーなわけです。
今回の出品作品は、墨で塗装したマットやフレームに神代杉を使っていたり、全てにおいて「時」というものを想像させるもので満ちていますね?
できるだけ闇に近い黒を出したかったので墨を使っていますが、書の考えに、「擦れ合いは時間だ」というのがあるんです。墨と紙の摩擦で時間を表すというもので、墨を天地、上から下にストレートに塗って、時間の経過を再現してます。
写真の裏に蓄光シートが裏打ちしてあって、暗いところで見ると、うっすら光るんですよ。さらに数分後、目が闇になれてきた時が面白い、ぼんやり見えているのか見えていないのか分からない、撮影している時の状況にとても近い体験ができると思います。

(インタビュー:石井芳征)