前回の記事「アートバーゼル香港に行ってきた」では、アートフェアとしての東京との比較、アートバーゼル香港の成り立ち、VIPに対する扱いについて触れてみた。
今回はアートバーゼル香港がどのような顧客を対象にしているのかについて考えてみようと思う。
・若年層のアート熱
アートバーゼルだけでなく、サテライトフェアのアートセントラルでも見受けられたが、学生を始めとする若年層の来場者が非常に多かったという印象だ。
彼らは作品の写真を撮ったり、作品と一緒に自撮りをしたりして、SNSに投稿しているのが目に付いた。
日本の場合も同様に、美術館で写真撮影が許可された展覧会の場合には同じような現象が起こるが、その動機のメインはSNSに映える写真を撮ることである。
しかし香港の場合は単なる展示だけでなく、来場者が若い頃からあくまでアート作品購入の現場に接しており、売買を身近に感じることが将来の購入層を生み出すことにつながっていると思われる。
・販売対象としてのインスタレーション
アートバーゼル香港では入場口のすぐ近くに大型インスタレーションが配置され、撮影スポット的な見せ場も兼ねた作品を展示している。
遠藤利克や大巻伸嗣など日本人作家もメインで大型インスタレーションが出品されていた。
通常日本ではインスタレーションは売り物ではないが、こちらでは販売作品として売っている。
見本市としてのバーゼルの中で鑑賞に重きを置いたインスタレーションを展示する場があり、結果それが購買につながる良い仕組みが出来上がっているのだ。
アートフェアという場でインスタレーションがきちんと販売されているということが、日本との大きな違いである。
ART HKからアートバーゼル香港に主宰者が切り替わり、販売しやすい作品を売るというだけでなく、大型展示にまで販売の範疇を広げているという点が顕著になってきていると言える。
・アートによる教育
さらに驚くべきことに、アートバーゼル香港では小学生に向け作品見学のツアーを開催していた。
こうした商業的な場にあって、幼少期にコンテンポラリーアートを見た経験を持つ層が増えていくということは、間違いなく今後のアートマーケット拡大に影響してくるだろう。アートは幼少期から身近に触れるものだということを、アートバーゼル側が教育しているのである。
香港の市場はアートにおいて成熟しつつあるものの、美術館や美術大学などは日本の方が圧倒的に多い。
一方、巨大な中国マーケットからの顧客誘導、関税がかからない、英語に堪能な人が多いなど、市場取引における利点は香港に多い。
もし日本で香港の持つハブ機能を獲得することができれば、啓蒙された若年層をアートマーケットで顧客とすることは可能なはずだ。
美術作品を鑑賞するという土壌が十分ある中、それを購入につなげていくことは日本でも今後可能になるかもしれない。