西尾さま3

西尾康之

幼少時から現在までのストーリー

 幼児のころ、油粘土で遊んだり絵を描いたりするなかで、まだ2歳くらいのときから自分は天才であると思っていた。だが、両親に「芸術家は餓死する」、とも言われており、そうならないように警戒し続けてもいた。何か小動物を飼育するごとに「餓死しない?」と問う二歳児でもあったそうで、死亡とはすなわち餓死であると誤認してもいた。親から受けたその餓死への恐怖は深く彩り豊かに西尾の心を満たしていたのであった。

しかし少年期を過ぎる頃には餓死の恐怖に打ち勝つ柔軟性というか、暢気さが身について、気が付けば美術大学に入って、せっかくバブル経済真っ盛りの時に卒業したにもかかわらず就職せず、彫刻作品を作り続けていた。バブル崩壊後の就職難を考えると狂った選択のようだが、暢気な時代には、金儲けを仕事にしなくても餓死しないとも思えるのであった。

 

 武蔵野美術大学の彫刻学科を卒業してインドに渡航した後は、5、6軒の貸しギャラリーで展覧会をしていたのだが、そのうちギャラリーの企画で展覧会をやってもらうことも増えてきた。それでも、当時のアート作品の販売による年収は50から60万円くらいだった。生活を支えていたのは造形屋と呼ばれる博物館の模型とか舞台の大道具とかを製作する仕事で、アルバイトとして、四谷にある蝋人形の制作会社で働いていたこともあった。

だが、そんな暢気な時代はつづかず、バブル経済の残滓が枯れると同時に造形屋稼業は事業が成り立たなくなり、餓死の恐怖が忍び寄る。30歳で一度廃業し、その後はディズニーランドでペインターをしていた。

 

 実は西尾には受験コンプレックスがあり、東京藝術大学の受験には2回失敗している。

その後も尾を引いて、試験の結果を待つこと自体が嫌いになり、公募展形式の作品を出品して審査を待つやり方には一切参加しない時期もあった。

しかしながら、ずっとそうしているわけにもいかない。子供も産まれて餓死の危機は一家心中にグレードアップし、彫刻か一家心中かという選択を迫られ、何とか餓死せずに美術をと一念発起して、公募展に応募し始めるのだが、キリンアートアワードの奨励賞をはじめ、公募展に出すと受賞はするものの、グランプリや大賞には届かず、悔しい思いをしていた。

そういった中で、第1回のGEISAIでグランプリを受賞したのは本当に有り難かった。

GEISAIでグランプリを受賞した後はコマーシャルギャラリーのスカイ・ザ・バスハウスを紹介してもらった。当時、スカイ・ザ・バスハウスで働いていた山本現代の山本裕子さんが担当されていたこともあり、山本さんのギャラリー独立をきっかけに山本現代の所属作家となり、今に至っている。

作品の制作について

 自分の人生の中で、心の傷を負ったときとか、解決不能の問題が発生したときに新しい作品が生まれている。

美しいと思う感情は、無力感を代償として手に入れる快楽で、一種の敗北宣言であり、プロの芸術家は人類を代表して新たな敗北を提示してくれる人物じゃないかと認識している。西尾はあまりに美しい物を見た時は必ず泣いてしまうそうだが、その涙はやはり幼い頃に流した涙に相違ない感情発作に過ぎなくて、敗北や恐怖を畏怖として複雑化させているに過ぎないのじゃなかろうかと分析する。

酷い事件や事故、理不尽な状態など、社会のもつ問題点や心の傷を、美術品に仕立て上げることは、認識を仕立て直す文化的本能だと思う。この世のほとんどの美術作品は、美しいと感じる事を剣として何かの問題を克服しようとした形跡を持っていると思う。少なくとも、西尾の作品においてはそれを意識的に用いており、美術を持ってあからさまに恐怖に対峙している。幽霊や死体、様々な死の恐怖など、また、指跡を集積したような陰刻鋳造と言う西尾の代表的な技法の中には、自らの作業でありながら、蓄積を視覚化すると自分の仕業に客観的に驚き、畏怖に繋がるという、人為そのものへの恐怖が中心にある。

 

 現在は、千葉県の山武市にある18坪のプレハブのアトリエで、朝から晩まで自分のやるべきことを分析・検証したり、展覧会に合わせた作品制作をしている。

一人でいると、恐怖の暴走をだれも止めてくれない状態で、そのためかアイデアがどんどん出てくる。もうすでに山ほどのアイデアがあり、今の制作ペースで計算すれば3000年分はある。

これからプロの作家を目指す人に

 青年の頃、美術は文明のなかでも正しい部分であると、得意分野へのひいきからそう思っていた。だが、それは誤認で、それはまるで腐乱した死体のように、作用が激しく活性化しただけで、正しいわけではなく、時としては悪だ。理不尽で厳しく、紛れもなく餓死の恐怖を孕んでいる。

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