東麻奈美
Manami Higashi

東麻奈美は「回転」というテーマを通じて、時間や次元、永遠性といった目には見えない概念をキャンバス上に描き出します。一見するとデジタル的でポップな印象を与えますが、その背景には美術史や社会構造に対する深い洞察が込められています。
「回転」というテーマには、20世紀初頭のフォーディズム――生産の効率化と繰り返しを重視する工業的価値観――への思想が重ねられています。
当時の画家たちは、目まぐるしく変化する機械やスピード、運動といった近代の躍動感を視覚的に表現することを追求し「未来派」と呼ばれました。
東の作品における連続した残像のような表現、また動きの軌跡が幾重にも重なり合う構成には、まさに未来派の「時間の可視化」という理念が受け継がれています。
制作はまずフィギュアをターンテーブルに設置し、360度回転させながら撮影することから始まります。そこから複数の瞬間を切り出し、それらを再構成することで、ひとつの絵画の中に時間の流れや視点の移り変わりを内包させていきます。
キュビズム的視点からも影響を受けており、一つの対象を多角的にとらえ再構成することで、同時多発的な視覚体験を生み出しています。過去・現在・未来、正面・背面・側面が同じ画面上に存在する構造は、平面でありながら時間や空間の深さを感じさせる要素となっています。
美術史の潮流を踏まえた構成力と視覚理論が息づいた作品は唯一無二の深みを持っています。