藤原裕策の作品は、版画用の板に、まずアクリル絵の具で着彩して乾いてから、
彫刻刀でフォルムを浮き出させる という技法によって出来上がっている。
色や形を上へ重ねていく通常のペインティングとは逆に、一度塗った色面をどんどん削り取ることで、色や形を成り立たせていく。
作家には、いわばペインターとしての人格と、木彫家としてのそれが同居しているのだ。
一度彫り始めたらもう色は足さない。
理詰めで下準備をするのではなく、筆を走らせる最初から作品の最終ゴールを想定しつつ、
色を塗る段階も、彫刻刀で彫り出す時も即興性のある過程を経る。
この独創性に満ちた表現方法は、藤原の言う「はっきりと確認できないもの、
見えない物などの魅力」への追及には有意義なのであろう。
また、かのミケランジェロが言ったとされる「大理石に埋まっている人物をただ取り出すのみ」という
逸話の様に、作家の彫り出す造形は、元からある人やモノを平らな画面から掘り起こす職人のような作業なのかもしれない。