グラスゴー留学中よりイギリスでのグループ展に参加。帰国後、三鷹市芸術文化センターで開催された個展(2001)では、ドットのシールを用いた独特の手法による作品が大きな反響を呼んだ。2003年には「絵画新世紀」(広島市現代美術館)、「Japan:Rising」(Palm Beach Institute of Contemporary Art、フロリダ)など、国内外の美術館での企画展に出品し、高い評価を得ている。一見デジタル的でありながら大いにアナログな手法により制作される作品は、視覚と観念に強いインパクトを与える。
無数のドット状のシールを整然とキャンバスに貼ることで渡辺聡の制作は始まる。ペインティングの後、そのシールは一枚ずつ剥がされては別のキャンバスに移され、2点組の作品となる。ドットを敷き詰めた画面には、スフィンクスやルーブル美術館など、世界的に有名な建築や、誰もが馴染みのある風景が描かれてきた。点描画のようなこれらの作品は、筆触が残る点描とちがい、均一なシールのあとがドットとなって抜けているため、画面全体がヴェールに被われたような効果が生まれる。こうして「新しい」風景に出会う私たちは、見慣れた筈のイメージが実はメディアというフィルターを通した風景にすぎず、きわめて曖昧なものであることに気付かされる。
ドットはテレビの画面や印刷技術のように、3次元のものを2次元にコード変換する手法である。こうして対象物にひそむ現実との距離感を浮かび上がらせることが、渡辺聡の作品テーマといえよう。
(TARO NASU ウェブサイトより転載)