私の家の横には沼があって、そこをすくうと不思議と貝殻がでてきました。それは昔海だったからなのか、それとも何かのきっかけでそこに流れ着いたのか私にはわかりません。泥にまみれた貝にはもちろん中身はなく、殻だけ残っていました。それを見て私は、ああ貝だと認識したわけですが、そもそも私が思う貝とはなんだったのか、わからなくなりました。そういえば今まで食べていた貝は、殻があって初めて貝と呼んでいて、私はその殻をこじあけ、”貝の中のもの”をおいしいおいしいと食べてきたわけです。ところが、当たり前ですが、その”貝の中のもの”が貝そのものです。意思を持って前へ後ろへ進み、食料を探し当て、生き延びて最期には何者かの栄養になった貝(の中身)。私は彼らを食べさせてもらっているのに、彼らの体の形すら知らなかったのです。