おもに森の生き物を題材にファンタジックな水彩画を発表し続けている村田なつか氏。童話本や絵本のワンシーンを思わせる場面構想力は、透明水彩の独特な滲みとマスキング技法とを駆使することで、より洗練された境地に達しています。動物イラストレーションの王道を承けつつ、自然の陰りや発光感まで豊かに表現できる余白の巧みな使い方が印象的。
本作は、村田氏がクジラに取り組んだ大型作品です。題材になったのは幼い頃、地元の浜辺に打ち上げられたクジラを見た体験。「(息絶えていた身体は)とても大きく、力強い何かを感じた」という思い出から、最初は横の構図で考えていた本作を、意思をもって明るい方へ昇っていくイメージになるよう途中から縦に変更し描いたそうです。そして世にも珍しいタテのクジラ絵図が仕上がりました。「昇竜」ならぬ「昇鯨」はポジティブな底力を見るものに与えてくれそうです。