犬はいつも怒ったような顔をしていた。それは生まれつきのもので、別に怒りは感じていなかった。彼を世話する人間は、冗談半分で彼に「マグマ」という名前をつけた。「マグマのように怒る犬」がいるというのは、人間の中でちょっとした話題になった。
ある日、人間はペットに身分証明書を交付することにした。それは賛否両論を呼び、人々の議論の的だった。ある日、ペットの権利を守る弁護士を名乗る人間が家にやってきた。「身分証明書には、犬であること以外に、非常にセンシティブな内容を記入する欄がある。あなたの犬はそれに怒っているのではないですか?」弁護士は飼い主にそういうと、届いたばかりの犬の身分証明書の「種」と「名前」以外の欄に乱暴に線を引いた。彼はかなり怒っているようだった。マグマは、その弁護士が持ってきたおやつを、すこし怯えながら受け取った。