少女たちをメインモチーフにしながら、私たちの日常と空想の行間に横たわっている微妙な情感を丁寧な筆使いで描き続けている、菅野麻衣子氏。絵の人物たちは子どものような身体バランスを持ちますが、それらは菅野氏自身の分身のようであり、老若男女問わず共感できる一人芝居を演じて魅了するように見るものの心へ入り込んでいきます。絵のシーンの前後に長い物語性が感じられ、深読みしたくなるディテールが満載。アクリル絵具によるオーソドックスで鮮烈な塗りと、見るものをワクワクさせるカラー設計、そして着想豊かな構図の掛け合わせにより比類のない世界観を構築しています。
本作は菅野氏のアクリル画近作から自薦の1枚です。岩手県遠野市での生活からインスピレーションを受けて制作される作品が多い菅野氏。「年中行事や神事が今でも盛んに行われ、神や妖怪が多く住むといわれる不思議な土地」である遠野を民俗学の視点で捉えるように表現しているとのこと。本作は、人間の世界とそれ以外との「境界」がテーマになっています。
個展「ココ△」(2022年、仙台市・中本誠司現代美術館)にて展示され好評を博しました。