幼いときからシナスタジア(共感覚。文字や音に色を感じたり、逆に色に音や味を感じたりする特殊な知覚現象のこと)を持つ石田真弓氏。特に音から色が見える色聴の自覚があり、今も独特な感性を絵や立体で表し、オリジナルピアノ楽曲も発表しています。音楽とシームレスにつながった表現として絵画を用いる稀有で興味深い才能といえるでしょう。
アクリル絵具や油絵具による塗りのつぶれやかすれ、色の重なり合いや模様のようなものたちが作り出すユニークなハーモニーが、彼女の絵の最大の美質です。その時々の彼女自身が置かれた環境や内面世界が手から筆へと転送され、色合いはときにオーソドックスな油画の伝統を思わせるメランコリックな情緒をまとい、時にはストリートアートのようにポップで鮮やかな躍動で見るものの心を震わせます。
本作は、近作からの自薦の1枚。石田氏は交響曲の演奏をコンサートホールで鑑賞するといつも、聴き終わって心の中に残る風景があるといい、それが主題になっています。たくさんの楽器の音が混じり合い、その残響が終演後も残り漂っている様子が描かれています。
個展「音楽がきこえる」(2020年、恵比寿・AL)、「dialogue」(2021年、コート・ギャラリー国立)にて展示され好評を博しました。