福津宣人は90年代半ばから、パターン・ペインティングともいうべき独自の絵画様式で注目を集めてきたアーティスト。絵筆とキャンバス、またはペンとタブレットによって丹念に塗られる、夥しく細かいパターン文様は、彼の手によって糸のように織り進められ、美しい変化を編みながら、私たちの網膜へ描写対象をしっかり送り届けてくれます。描こうとする対象の「具体」と、パターンという「抽象」。その中間にある無限の広がりへと見る者を手招きするのが彼の絵画なのです。パターンの連射は描写対象との執拗で濃厚なダンスであり、だからこそ具体と抽象の間に横たわる本質を深くすくいとれるのでしょう。数多くの建築家たちとの交流も、そのプロセスや考え方が支持されているからにほかなりません。
本作は、油絵の具を垂らすことで浮かび上がる模様を用いた風景のシリーズから自薦の一作です。「ドロップシリーズ」と称され、各方面から高い評価を得ているシリーズ。彼の網膜と結びついた指先の動き、スプーンからキャンバスに落とされる絵の具の雫(しずく)が偶発的に生み出す溜まりや光沢、色彩の混交、時間の力を援用して作り出されるレリーフのような表層が比類のない立体的色彩美を生み出しています。
個展「光のありか」(2022年、恵比寿・AL)にて展示され好評を博しました。