幼いころ、あんなに飛んでいた蜻蛉を、
大人になってから、あまり見なくなりました。
私にとって蜻蛉は、もうそこにはない郷愁の象徴であり、
でも脳裏にある思い出のアイコンでもあります。
支持体となるチタンは金属の中でも錆びにくく、
天候や光の移ろいにより色調豊かな干渉色が現れます。
色褪せない、そして複雑な感情を持つ郷愁を
表現する作品の背景に相応しい特性を持っています。
我々が目を瞑って蜻蛉を思い浮かべるとき、
透明な羽根の向こう側に見えるのは、
童謡『赤とんぼ』で描かれているような
「いつの日か負われて見た」夕焼けでしょうか。
それとも、松任谷由実が『守ってあげたい』で謳ったような
「息をころしてトンボを採った」遠い夏の青空でしょうか。