黒い顔料インクがペンで運ばれて姿を表す線のひとつずつが、まるで細胞のように画面のなかで形をなし、うごめき、生命を吹き込まれたように存在を主張して見るものを圧倒する板谷うた氏のアートワーク。
細密画、ペン画のジャンルで異才はすでに数多く活躍していますが、彼女は具象を離れた抽象感覚、内なるエモーションと無意識の世界を融合させることで他にない独自性を見せながら日々成長しつつあり、様々な美術関係者に着目されるようになっています。モノクロなのに彩りを印象づけ、また平面なのに奥行きや動きを感じさせる板谷氏のペン画世界のこれからが大きく期待されています。
本作は、彼女の複雑なペン画を、模様、パターンや抽象的な塗りの筆使いと融合させた近作カラーシリーズから自薦の一作です。巧緻な仕掛けを含みながらもグラフィックな彩りと楽しさがあり、巨細に見て楽しめる新しい境地を示しています。