本シリーズは生成AIモデルを用いて制作した人体イメージをデジタル上で解体・再構築し、それを手描きの絵画作品として表現したものである。
制作の動機には、多くの生成AIモデルが学習データの偏りから人種や性別を均等に表現できない問題があり、それを通じて現代社会におけるイメージの偏向や歪み、曖昧な像が絶え間なく再生産される「シミュラークル」への批判的な視点がある。
「モデル」という存在は美術史において長い歴史を持ち、かつては画家が描く理想像を体現するものであった。しかし現代ではインターネットやデジタル技術の発展、さらに画像生成AI の登場により、モデルの身体的な実在性は希薄になり、非実在的かつ仮想的な存在へと変容している。特にInstagram やYouTube などのSNS プラットフォームにおいて、ファッションモデル、グラビアモデル、インフルエンサー、アイドルなどは、自らを商品化し、自発的に理想像を提示する「記号的存在」として機能している。このことは、身体に対する欲望や羨望を増幅させ、特定の美の規範を形成する要因となっている。
現代社会では、美の基準がメディアやデジタル画像処理技術によって強く規定され、加工や修正により作られた「完璧なイメージ」がますます一般化している。さらに、デジタル画像は物理的な写真とは異なり経年劣化しないため、時間の経過によるイメージの変容や自然な身体の多様性が可視化されにくくなっている。また、SNS 上での自己表現は、個人の記録を超えて社会的承認を得るための手段として用いられ、身体の商品化をさらに促進する。こうした背景には、特定のロールモデルに近づくことで得られる社会的ステータスや承認欲求がり、美の規範はより一層強固になっているのではないだろうか。
しかし、現代において「美の規範がいかに形成されるか」という問いへの答えは単純ではない。ボディポジティブ運動の普及やSNS を介した多様な美の価値観の提示などが見られる一方で、それらが真の多様性を促進しているのか、あるいは新たな規範を生み出す巧妙なメカニズムとなっているのか、という疑問も浮上している。またAI が生成する身体イメージに関しても、そこに内在する完璧さと同時に見え隠れする不完全さ、共感性の欠如という問題に人々がどのように向き合うべきかという課題がある。AIが提示する新しい身体像は、本当に新たな美の価値観を開拓できるのか、それとも表面的な理想にとどまり、消費の対象にすらならないのかを慎重に検討する必要がある。
このような問題意識から、私はあえて手描きで描画するという手法を採用している。手描きによる絵画表現を通じて、デジタル生成された「非実在的な身体」に対する作者自身の身体的な介入や痕跡を残すことで、身体イメージが持つリアリティと虚構性の境界を再考することを目的としている。手描きの描画というアナログな行為は、デジタル技術が生み出す理想化や抽象化された身体像に対し、物質的な現実感や時間性、作者の主観性を再導入し、現代における身体イメージの意義を問い直すための重要な手段となっている。
本シリーズは、こうした現代社会における美の規範の形成プロセス、身体の理想化、そしてモデルという「記号的存在」の問題を批評的に考察しつつ、AIを用いた身体イメージ生成の可能性や限界を探る試みである。
This series of works is a series of digital deconstructions and reconstructions of human body images created using the generative AI function within Adobe Photoshop 2024, with “situation, movement, composition, race, and gender” specified as the main prompts, which are then expressed as hand-drawn pictorial works.
The motivation for this work was the problem of the inability of many generative AI models to equally represent race and gender due to the bias of their training data, and through this, a critical perspective on the bias and distortion of images in contemporary society, and the “simulacrum” of the constant reproduction of ambiguous images.
Models” have a long history in art history and used to embody the ideal image painted by artists. Today, however, with the development of the Internet and digital technology, as well as the emergence of image-generating AI, the physical reality of models has become less real, and they have been transformed into non-existent and virtual entities. Especially on SNS platforms such as Instagram and YouTube, fashion models, gravure models, influencers, and idols function as “symbolic beings” that commodify themselves and spontaneously present ideal images. This amplifies the desire and envy for the body and contributes to the formation of specific beauty norms.