カートアイコン

EN / JP

僕がドイツから帰国して間もなくの頃だった。直後に阪神淡路大震災が起き、続いて東京の地下鉄でサリンテロがあり、世相は騒然としていたそんな時だった。誰かのオープニングの会場で、知人のギャラリストからリトの刷り師の方を紹介された。それが板津悟さんである。その時は、お互い挨拶を交わしただけだった。それからしばらく経って、板津さんから連絡があり、僕たちはあらためて会った。“ちょっと遊んでみませんか?”板津さんは、僕にリトを作るよう勧めた。そうやって制作されたのがリトグラフによる最初の作品「撃墜王」である。以来、10年近く、僕は板津さんの刷りで大小様々なリトを作ってきたのだが、モティフが墜落していく飛行機や子供が産み捨てられたアパートだとかおよそ不幸な夢の仔ばかりで我ながらアキレテしまう。
そう云えば、昨夏、あの猛暑にあてられたわけでもないのだろうが、板津さんと制作したリトグラフは、お天道様がウインクをすると山も海も焼きつくされてしまうと云う絵だった。でも、刷り上がった僕の作品から人が、なにか殺伐とした光景や凶々しい空気を嗅ぎとることは少ないように思う。今まで、余りそう云った印象なり感想を聞いたことがないからだ。でも、僕は人にそう云うことを気取られないような操作はしていない。リト用のアルミ板の上に、“墜ちてる、く、死んでる、く、燃えてる、く、”と念仏でも唱えるようにクレヨンを重ねているくらいだから。たぶん、それが平面であり、版画だから、だと思う。
版画は、イメージを二度殺す。あれこれ思案の程は、紙であれ、アルミ板の上であれ置かれたとたん、ノサレテしまう。此の身は、熱を奪われ、質量を滅し、方位を見失う。尻こ玉を抜かれてぺしゃんこにされるのだ。平であることの苛酷と恐怖は、これに尽きる。僕らの日々は、平らな上にはあり得ない。では、画家が、日々、絵を描くとはどう云うことか?あり得ぬ日々を、信じて疑わない、と云うことだ。これがワカラナイ画家は、「生きる」ことによほど倦んでいるか、スレている。さて、これが最初の殺し。二度目は、製版と印刷の時。僕が盛り々と塗り重ねたクレヨンは、始めにのせた一層の痕だけをシミのように残して後は揮発精油できれいに流される。水引きとインク盛りを交互に繰り返してローラーにかければ、最早、出自を失った似姿が一枚二枚と複製されてゆく。これで二度殺し。事程左様な自由狼藉の果てに刷り上がった作品を眺めながら、“ああ、コレもありか…”と妙にフに落ちてしまうのは、ココロを殺し、身をひるがえして到る回天の業に僕が、まんまとシテヤラレタからである。
O Jun 記(2005年 1月21日 「O Jun 全リトグラフ展」プレスリリースより抜粋)

Wink

Wink

O Jun

作品本体価格Sellng Price(Artwork)
¥ 40,000
額装費Framing Price
¥ 12,000
消費税Tax
¥ 5,200
合計金額(税込)Total(include tax)
¥ 57,200
SOLD OUT

More Details

3版 3色, IZUMI用紙

サインSignature
あり Yes
EDITION
ED -/25
制作年Year of Creation
2008年
サイズSize
38.5x 28 x3cm
作品の状態Condition
良好
額仕様Frame Specification
マボガニー
額寸Frame Size
52.5x 42x cm
納品期間Shipping Time
約3週間
特記事項Notices
※既存の額でのお渡しとなります。
作品IDItem ID
8651

Profile

1956年 東京生まれ。
80年東京藝術大学美術学部油画科卒業、82年同大学院美術研究科油絵専攻修士課程修了。
84-85年スペイン、バルセロナに、90-94年ドイツ、ヂュッセルドルフにそれぞれ滞在。
2009年4月より、東京芸大油画の准教授。
《主な個展》
2010   個展「星はなんでも知っている」キドプレス
     「絵画の庭 ゼロ年代日本の地平から」国立国際美術館(大阪)
     「アーティストファイル2010」国立新美術館
     「入口はこちら、なにがみえる?」(MOTコレクション)東京都現代美術館
     「The 14th Vilnius Painting Triennal」ブェリュニュス現代美術館(リトアニア)
2009   個展「JEDNOM OLOVKOM 一本の鉛筆から」ベオグラード(セルビア)
     「O JUNと加藤啓展」アートコンプレックスセンター
     「異界の風景 - 東京藝大油画科の現在と美術資料」東京藝術大学美術館
2008   個展「眼の、前に」公開制作 府中市美術館 など
著書・作品集に『O JUN 1996-2007』(赤々舎、2007)がある。 (『美術手帖』2007年10月号参照)