1996年秋ニューヨーク近代美術館に始まり、ケルン、ルードヴィッヒ美術館、東京都現代美術館と巡回した《ジャスパー・ジョーンズ》回顧展は質量ともに圧倒的な見ごたえのあるものだった。会場の最後の方に、当時の新作として《無題》1992-95年の大作が展示されていたのを記憶している。左に幼少期を過ごした家の平面図、それに重ねてグリューネヴァルトのイーゼンハイムの祭壇画の「復活のキリスト」の前に倒れる兵士の線描、中央下部には相変わらずピカソの人物の目、といった興味深いモチーフがちりばめられ、というより、整然と配置されていた。その後ニューヨーク近代美術館に常設展示されたこの作品は色合いもシックでマチエールの美しさも際立っていた。2x3メートルのキャンバス作品を家にかけるのは難しいが、この版画なら可能、価格も500分の1。MoMAにも同じ絵柄のがあるよ、と自慢できる1点。資産価値としても間違いのない優良銘柄だ。(執筆:広本伸幸)
ULAE(Universal Limited Art Editions※)制作。
※ 1957年にタチアナ・グロスマンによってニューヨーク州ロングアイランド、ウェスト・アイスリップに設立された、アメリカ現代版画を代表する工房の一つ。