水彩絵具を微妙なバランスで混交させ走るU-ku氏独特の筆づかい。それがふんわりと滑ってゆくとき紙上は平らな物質を超え、「心の世界」についてのテーマパークへと一変します。何をモチーフにしているのか明確に表してはいないにもかかわらず、淡い色調を明暗巧みに操りつつ、にじみやカスレ、勢いの抑揚などひとつずつの塗りにフェティシズムを宿すような画面づくりが印象的。余白は宇宙にも通じそうな奥行きをたたえ、絵に小さく隠しこまれた女性や生き物が彼女自身の心象風景へのナビゲーターを演じることで、絵にドラマティックなスケール感を与えながら見るものを包みこむのです。
耳元でささやかれる小さな声こそ永遠の思い出になるもの。U-ku氏の絵はそんな知覚体験に似て、小さくとも見るものの心に染み入って限りなく広がる浸透力に特徴があります。その絵の魅力は全国各地の個展やグループ展、アートフェアなどの場を中心に着実に共感を広げており、今後の飛躍と成長が楽しみな新鋭です。
本作は、「黒の静寂を活かしたシリーズ」からの一作です。「桜の舞う景色を思い浮かべて、そこでドラマチックな出会いを果たす男女を想像して描いた」(U-ku氏のステイトメントより)といいます。