保坂有美氏の描く少女や鳥、兎、犬、猫などは一見して日常風景の住人ではなく、まぶしげな遠い彼方の世界に浮遊しているようです。それはしばしば絵の主題が「光」(又はその対極の「影」)であるため。動物や鳥などは神社の眷属から着想されるといい、人の内面へ光を差し込むメタモルフォシス(変身像)となって神秘的な雰囲気を創り出します。
また彼女の絵では「光」の演出も特徴的です。うしろから輪郭を立たせるリアライトとフロンタル(正面)やアンダーライトとを巧みに組み合わせるような仮想光源がイメージされており、それらが比類のないドラマティックな仕上がりを形成しているのです。
保坂氏は、いくつもの著名なアニメーション作品で美術監督をつとめたその美意識や技術を援用しながら、「生きる上での道しるべ」となりうる目に見えない「光」と目に見える「光」とを融合させたオリジナリティあふれる世界観の扉を開けたばかり。今後の活躍が期待される新鋭です。
本作は保坂氏が「縁起物シリーズ」と名付けた連作より、自薦の一枚です。文字通り、福を招く縁起物のようなモチーフと色づかいが保坂氏の作風と調和。「虎は中国では神の使いであり、厄除け、魔除けの意味があります。鮮やかな朱色と金箔で福福しい作品に仕上げました」(保坂氏のステイトメントより)。まだ未公開の、タグボートで初出となる新作です。