幻想的な多色づかい、曲線美のインパクトで見るものを包み、描かれる天使や少女、龍など架空の生物たちが自然界の生命力を転送してくれるような、サトチヒロ氏の絵画世界。それを極めて独特なものにしているのは、絵具に加え「水晶」を画材として用いることで生まれるダイナミックな絵肌とその輝きです。
水晶は、気の浄化やカームダウンに役立つなど代表的なパワーストーンとされています。カウンセラーやデザイナーとして様々な素材・物質を研究する過程で彼は、この作用を絵画に活かす手法を開発してきました。通常、水晶を粉末化したものは日本画において透き通った白の表現に用いられますが、サト氏の絵では天然の水晶が細石(さざれ)状で使われ、絵の放つエネルギーをブーストし、より強く豊かにするのです。世界でも類例のない独特な絵画手法への評価は定着してきており、絵によって癒やされる、などという体験をナラティブに伝え合おうとする熱心なコレクター層が形成されています。
本作は「夏の入り江」と題された人気シリーズからの一作。旅の記憶から触発される塗りの筆致に、独特の手法が融合し醸成するスピリチュアルな味わいが魅力的です。個展「水晶の絵」(2022年、仙台市・晩翠画廊)で展示され好評を博しました。
本作へのサトチヒロ氏のメッセージ
「小さな港の陽光は 丘の上に立つあなたの はずんで少し汗ばんだ頬を ゆらゆら撫でてゆきました」