幾重にも連なる四角の建築物には、アーチ状の窓が特徴的に描かれています。
アーチ状をした建築構造が人類史に登場しはじめたのは、メソポタミアのウラルトゥ、ペルシア、ハラッパー、 古代エジプト、バビロン、古代ギリシア、アッシリアといった古代文明でしたが、アーチの利点を最大限利用した世界初の建築者は、古代ローマ人(紀元前6世紀~)であると言われています。つまりアーチ状の建築群が存在しているということは、高度な都市のシステムを持っている、ある程度発展した文明の存在を示唆しているのです。
複雑に絡み合う線状の抽象物は「フラクタル構造」を意識して描かれています。
フラクタルとは幾何学の概念で、図形の全体像とその一部が似た形をしていることを言います。このフラクタル構造は自然界の様々な面で見られます。例えば海岸線の形、山の形、枝分かれした樹木の形。生物であれば、血管の分岐構造や腸の内壁。そして株価の動向など社会的な現象も、フラクタルな性質を持っています。
描かれたフラクタル構造は「自然界に満ちている法則」の比喩でもありますが、有限の紙の上に、無限の表面積を持つ形状を描こうとすることで、鑑賞者の想像力、つまり人間の脳の見えない部分を保管しようとする能力を借りて、無限に広がる世界観を描こうとしています。
IDEAL WORLD「理想的な世界」と名付けられたこの作品群には、ひとつひとつそれぞれ異なった背景やテーマが存在しています。
この作品は、フリントロック銃がモチーフになっています。
「フリントロック式」とは、1620年頃に開発された、マスケット銃などの火器で使われた点火方式の1つ。火打ち石と鉄をぶつけて生まれた火花で点火します。
それまでの銃は火縄式(マッチロック式)で点火していました。しかし火縄式は単純ではあるものの、湿気に弱く、火種が光源となり敵に見つかる危険性もありました。そのため、撃鉄が振り下ろされるその瞬間まで火種が現れないフリントロック式は、新しい点火方法として広まり、約200年間、世界で使用されました。
石井が一貫して持ち続けている普遍的なテーマは「生きるということとは?」です。人類史におけるコペルニクス的転回となった銃の発明は、人間の生死観をどう変えたのでしょうか。
よく見ると、銃口へ近くに従って建物が崩れています。