たっぷりのホイップクリームに、色とりどりのフルーツをデコレーションしたテーブルや椅子、日本庭園、印象派の名画、鹿の剥製……。スウィーツ好きの女性なら一瞬にして目がハートマークになるようなラブリーさと、一見してお腹いっぱいになってしまう怒濤のキッチュさに溢れた「Fake Cream Art」の世界。
その匂い立つようなリアリティ、過剰なまでのシュガー・ハイーーこれほどまでに甘く、老若男女の心を揺さぶるアートがあっただろうか。
「自分が好きなものにデコレーションを施すことで、対象との距離を縮め、より身近に感じさせたい」と語る渡辺おさむだが、母親はお菓子の先生だという。しかし、それだけでは済まされない。大真面目に培われてきた食品サンプル技術や、キャラクターを洋菓子で象るような審美感覚、「スウィーツ(笑)」と揶揄されるガーリーテイストの氾濫など、ジャパニーズ・カルチャー特有の要素がとろけあい、ホイップされ、クリーム絞りでにゅるにゅると、現代アートの俎上に飾りつけられているのである。
その彼が、今度は現代美術をターゲットにするという。巨大化したストロベリー、生クリームの山脈、極彩色のアイスクリーム・マーブルetc.……。ジャスパー・ジョーンズの『Target』シリーズ、ダミアン・ハーストのドット・ペインティングまで、現代アートの名作たちは、いったいどうなってしまうのだろうか。
ホイップクリームとスウィーツ(笑)と多幸感まみれのアート体験。禁断の誘惑をぜひ、あなたに。
深沢慶太(フリー編集者/『Numéro TOKYO』コントリビューティング・エディター)