天明屋尚の「ネオ日本画」が高く評価される理由は、伝統文化を現代的に見立てる独自のセンスと共にその確かな画力にあります。
独学で身につけた日本伝統美術の画法をもとに、現代の画材や素材を用い、たとえば下絵の制作にコンピューターを使ったり、岩絵具のかわりにアクリル絵具、版画特有のグラデーションはエアブラシを使うなど、伝統を今様に描いています。
天明屋尚は、狩野派、琳派、浮世絵など日本の伝統美術を継承しつつ、それらを現代的に翻訳して描いています。
『新形百物語』は、歌川国芳の武者絵や北斎の百物語の浮世絵的表現手法を現代に描いたらどうなるかというシリーズです。
ニューヨーク・ホイットニー美術館でのグループ展をはじめ、これまで海外での発表の機会も多く、その絵がNYタイムズ紙の一面を飾ったことも。
檀茶幢(だんだどう)とは閻魔大王の裁きの部屋にある鏡の前で、裁きを受ける人間の過去の行いが映った鏡を見て閻魔大王に報告する一種のプレゼンターです。
本来は頭だけで皿の上に載っている檀茶幢ですが、天明屋はそれに長い首をつけ轆轤首の姿に変え、ふだんは嫌なことがあっても手も足も出せない閻魔大王に歯向かう様子を描いてみせます。
「戦えないものが戦ったらおもしろいかなという単純な発想ですね」。むかつく上司にキレる部下、あの世の世界でもサラリーマン社会は厳しいようです。