桜と日本人の関係は興味深い。
本作は唐代の詩である「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」から作品名をとったが、これは桜の価値の変遷を指して作品名としたものである。
つまり梅が花見の中心であった江戸時代以前と、
山桜や八重桜が愛でられ始めた江戸時代。
(この頃まだソメイヨシノは一般的ではなかった。したがってソメイヨシノのように見える遠山の金さんの入れ墨は時代考証として微妙である。)
そして明治の国民統合の演出装置として、新種のソメイヨシノが植樹された時代。
日本において桜の意味や価値は大きく変遷してきた。
だが、これは私自身に限った話では無いと思うが、そのような歴史を学んだとしても、それでも桜が好きなのだ。
近代化の為の富国強兵と、葉を付けずに全ての力を咲くことに注力するソメイヨシノの関係、
あるいは第一次大戦の人的損耗を踏まえた「散り際」の美という死生観、
そして第二次大戦の戦局の悪化によってその役割を増大させられた経緯、
それらが制度として設計されていたと知っても、尚、桜が好きなのだ。
私はその関係を、興味深いと感じる。
本作は酒井抱一の桜図屏風を参考に描いた。
今後も、山桜を中心に桜を描きたいと思う。